IFRS欧州で不協和音?

11月16日の日本経済新聞朝刊の記事からです。

金融危機を受けたIFRSの金融商品に関する会計基準の見直しを巡り、欧州連合(EU)から「待った」がかかり、欧州企業においてこの基準の適用が遅れる可能性があると記事では指摘されています。

その的になったのが、以前このブログでも取り上げた金融商品の評価の区分と評価(測定)方法を見直すというものです。(ブログの内容についてはhttp://tsudaman0818.cocolog-nifty.com/blog/2009/10/post-4bc0.htmlを参照ください。)

もともと、この基準については早急に対応する必要があるとのことで、他の基準の見直しよりも前倒しで作業が進められており、EUも同じ立場であったとされていますが、土壇場になって、一部関係者から「時価評価の対象が広がりかねず、見直しが不十分」との声が上がったようです。推測ですが、公開草案段階では、株式については上場・非上場を問わず公正価値による測定が求められており、実務的には大変だなあと感じていたのですが、この辺りが問題になったのかもしれません。(※)

もともと、IFRSは法規制ではないため、欧州で適用するためにはEUの承認手続が必要だということですが、このような対応をしていたのでは、世界で1つの会計基準を作っても、各国の思惑でIFRSが捻じ曲げられてしまう恐れがあります。記事の中でも、欧州のドタバタによって、日本でも模様眺めの雰囲気が広がり、日本の会計の国際化に水を差すことに対する懸念が指摘されています。

個人的には、世界共通の会計基準が広がることで、世界中の人達と共通の認識の上で会計を扱うことができるようになることを楽しみにしているのですが・・・。

(※)最終的な基準の内容をご確認ください。

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中小企業向けIFRS(その2)

今回は、中小企業向けIFRSの基準の内容について少し触れていくことにします。

①財務諸表の体系

まず、この中小企業向けIFRSが対象とするのは、中小企業(SME)が広範な利用者を対象として作成する共通の情報、すなわち、一般目的財務諸表を作成するケースです。課税所得の計算や配当可能利益の計算などは特別目的財務諸表として位置付けられており、日本のように、いわゆるトライアングル体制の中で、会社法・法人税法・会計基準(金融商品取引法)の決算書がすべて関連付けられているケースとは、前提が少し異なっている点に留意が必要かと思います。

また、完全版IFRSにおいて導入されている包括利益計算書が財務諸表の体系に含まれています。完全版と同様に、1計算書方式と2計算書方式の選択が認められています。日本基準のコンバージェンス作業においても、包括利益計算書の導入は前倒しで(他の論点に先行して)検討が進められているようですが、会社法や法人税法との調整はどのようになるのか、個人的に気になっているところです。

更に、SME基準においても、親会社は連結財務諸表を作成することが求められています。これも、法律の規制によって、連結財務諸表を作成する義務がある会社が、ごく一部の企業に限定されている日本とは大きく異なる取り扱いであると言えるでしょう。パブリック・アカウンタビリティを有しない企業の中にも、海外進出や業務範囲の拡大によってグループ経営化が進んでいる企業はたくさんあるように思います。連結財務諸表にも関心を持っている私としては、連結財務諸表の作成がもっと広く浸透すればと思うところではあります。

②会計方針の選択に関する中小企業向けIFRSの取り扱い

記事ではSME基準の会計処理の概略について取りまとめられていました。前回のブログでも述べたように、中小企業向けIFRSでは、フレームワーク(枠組み)は完全版と基本的に同一としながらも、コスト・ベネフィットに配慮するアプローチが採用されています。その結果、完全版IFRSに比べると、会計方針の選択の幅が広げられていたり、複雑な会計処理の不採用ということが定められているようです。その一部をご紹介します。

・関連会社株式の測定(評価)は、原価法、持分法、公正価値法の中から選択可能である。(cf.IAS第28号「関連会社への投資」)

・借入費用の費用処理のみを認め、借入費用の資産計上を認めていない。(cf.IAS第23号「借入費用」)

・開発費の資産計上や無形資産の再評価モデルを認めていない。(cf.IAS第38号「無形資産」)

・投資不動産については、多大なコストと労力をかけることなく信頼性のある公正価値が測定可能な場合には公正価値モデルを採用し、そうでない場合は原価モデルを採用する。ただし、原価モデルを採用した場合でも、公正価値の開示は不要。(cf.IAS第40号「投資不動産」)

・共同支配企業に関するすべての会計処理が認められている。(cf.IAS第31号「ジョイントベンチャーの持分」)

・営業活動に関するキャッシュ・フローの表示は、直接法と間接法が選択可能である。(cf.IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」)

・固定資産の再評価モデルは認められていない。(cf.IAS第16号「有形固定資産」)

(次回に続く)

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中小企業向けIFRS(その1)

少し前の話になるのですが、2009年7月国際会計基準審議会(IASB)が中小企業向けIFRS(IFRS for SMEs)を公表しました。先日、日本公認会計士協会が発行する監査・会計ジャーナルの11月号に目を通していたところ、この概要に関する解説記事が掲載されていることに気がつきました。以前から、この中小企業向けIFRSについてはその動向に関心を持っていたのですが、最終基準が公表されたということで、その内容について少し取りまとめてみたいと思います。

①中小企業向けIFRS設定の必要性

完全版IFRSについては財務情報の比較可能性を高める等の便益をもたらすことが指摘されていますが、これらは中小企業の財務諸表利用者にとっても同じである(同じような便益がもたらされる)ということが考えられます。例えば、銀行等の金融機関が国境を越えて多国籍に中小企業に対する融資等の活動を行っているケースもありますし、取引先がその財務諸表を利用して企業の財務内容を評価することを望む場合もあるでしょう。このため、完全版IFRSの簡素化を図り、中小企業版IFRSが採用されることで、これらの便益がもたらされることが期待されていると考えられます。

②中小企業向けIFRSの概要

中小企業向けIFRSは、基準本体・用語集・結論の根拠・財務諸表の開示例・開示のチェックリストを合わせて約350ページから構成されています。350ページの会計基準(もちろん英語)というとかなりハードルの高いもののように感じられますが、完全版IFRSが英文で約2,500ページとなっていることを考えますと、かなりの簡素化が図られているということが言えるかと思います。また、用語集や開示のチェックリストが用意されているのは、中小企業においてその適用が可能となるための配慮であるとのことです。

中小企業向けIFRSでは概念フレームワークを抜粋する形での記述があり(基本的な考え方は完全版と同じであると考えられます)、その上で、中小企業向けIFRSは、利用者のニーズとコスト・ベネフィットを考慮する形で設定されているようです。また、完全版IFRSでは様々な解釈指針が公表されていますが、中小企業向けIFRSでは必要な解釈指針が本体に組み込まれており、今後も本体を直接改訂する対応をとることで、個別の解釈指針が公表されることはない見通しのようです。さらに、基準の改訂については、3年ごとの見直しが予定されており、適用時期についても改訂から1年の猶予を設けることが明示されているようです。この辺りも中小企業で適用が可能となるための配慮が垣間見える感じがします。

③中小企業(SME)とは?

SMEはSmall and Midium-sized Entitiesの略ですが、一体どのような企業を中小企業(SME)と想定しているのでしょうか?

公開草案では、収益、資産、従業員等の数値基準を設けることも検討されていたようですが、最終的には、「一般への説明責任(パブリック・アカウンタビリティ)がない事業体という形で整理が図られています。一般企業の場合、公開市場において負債または持分金融商品が取引されていない会社ということになろうかと思います。逆に規模的にSMEであったとしても、上場会社の場合は、パブリック・アカウンタビリティを有している企業に該当するため、中小企業向けIFRSの適用は妥当ではないと考えられているようです。

また、micro(零細)企業の取り扱いについても検討がなされたようですが、これらの企業はいわゆる課税所得計算のために税法に従った申告書を作成し税務申告を行うだけであり、一般目的財務諸表(広範な利用者が必要とする共通の情報)を作成する必要性がない場合もあると考えられることなどから、零細企業向けIFRSについては設定されなかったとのことです。もちろん、これらの零細企業が中小企業向けIFRSを適用して(一般目的)財務諸表を作成することを妨げるものではないと考えられます。

次回は、会計基準の概要について、取りまとめてみたいと思います。

(次回に続く)

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新興国市場の重要性

11月5日の日本経済新聞朝刊の1面に日本の自動車メーカーに関する記事が2つ並びました。なんとなく珍しい気持ちがして、両方の記事を読んでみると、以下のようなことが書かれていました。

・トヨタ、中国に開発拠点

トヨタ自動車は2010年にも中国に大規模なテストコースを備え、車両開発を総合的に手がける新会社を設立する。中国の自動車市場は2009年に米国を抜き、世界最大になる見通しだが、トヨタのシェアは6%にとどまる。トヨタは新たな開発拠点の設置によって、価格・性能・デザインで高い競争力を持つ「中国専用車」の開発を目指す。

・日産、一転営業黒字に

日産自動車は2010年3月期連結決算で、本業のもうけを示す営業損益が1,200億円の黒字(前期は1,379億円の赤字)に回復する見通しだと発表した。中国など新興国で新車販売が上向き、従来の赤字予想から急回復。ホンダ・スズキを含め新興国に強いメーカーの収益改善が鮮明になってきた。

中国を新興国と呼ぶのがはばかられるほどの経済発展を遂げていますが、欧米の先進国市場ではなくアジアを中心とした新興国市場でシェアを伸ばしている企業の業績回復が目覚ましくなってきました。以前、このブログでも「企業業績のアジアシフト」というタイトルで記事を書かせていただきましたが、その傾向がより鮮明になってきつつあるようです。

「企業業績のアジアシフト」へのリンクはこちら ⇒ http://tsudaman0818.cocolog-nifty.com/blog/2009/06/post-d527.html

内容は新聞記事の分析結果をまとめたものだったのですが、恐らく、セグメント情報の分析・集計結果を取りまとめた結果からその傾向が読み取れるということが書かれていました。こうして考えると、財務諸表は企業の将来動向の予測に対して少なからず有用な情報を提供しているのだなあと、今更ながら感心した次第です。(お恥ずかしい話ですが)

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国際会計への挑戦

11月3日の日本経済新聞朝刊に「国際会計への挑戦」というタイトルの記事が掲載されていましたが、皆さん気がつかれましたか?

記事では、まず水晶部品メーカーである日本電波工業が従来英文の年次報告書の作成時のみに採用していた国際会計基準(IFRS)を2010年3月期の国内開示に適用すべく準備を始めているという話題から始まります。英文の年次報告書に先行して国際会計基準を採用した背景として、1990年代後半のいわゆるレジェンド問題から、海外の投資家や取引先に財務の健全性を示す必要に迫られたことが取り上げられていますが、筆者はこのような取り組みを会計不信から身を守るために、国際的な基準を利用して、市場に対して自ら説明することに活路を見出したと評価しています。このような対応は、統一通貨ユーロへの参加とその帰結としての国際会計基準採用を決定した欧州各国においても同様であり、長年培われた企業文化の美点よりも、自国の経済や市場を守り企業の国際戦略を優先するという視点が優先されたと指摘されています。

また、記事の最後には、故染谷恭次郎先生が1967年に発表された「インターナショナル・アカウンティングへの挑戦」という論文が引用されています。染谷先生は、単に会計基準の差異だけでなく、企業経営や市場の背後に横たわる文化・哲学の違いを乗り越えることの重要性を指摘した上で、「会計人よ、視野を世界に広げてほしい」という言葉で締めくくられたそうです。この「視野を世界に広げる」という言葉の意味を少し噛み締める必要がありそうです。

先週、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)の両首脳が会談し、現在年3回となっている両親議会の会合を今後は毎月行うことを表明したそうです。これにより、両者の共通化はより徹底され、ひいては、米国が国際会計基準の強制採用する前提条件が整っていくことにもつながっていくと考えられます。日本でも国際会計基準への関心が日に日に高まっていく中で、前述の日本電波工業さんや欧州各国の取り組みや染谷先生の指摘を読みながら、「会計の国際化に本当に必要なものは何か? 何が求められるのか?」ということを少し考えさせられた記事でした。

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上場企業の業績改善

11月1日の日本経済新聞朝刊の記事からです。

同紙が7月~9月期決算を集計したところ、全産業の連結経常利益が4月~6月期比で2.3倍となっており、2四半期連続で改善したとのことです。製造業を中心にコスト削減が進んだことや景気対策の効果で売上高が底打ちしたことが要因として挙げられています。ただ、政策効果が一巡することや円高の影響も懸念されることから、今後については不透明感がまだ強いようです。

さて、この記事を読んで、お気づきになることがありませんか? 昨年からの四半期決算制度導入により、期首からの累計業績に加え各四半期毎の業績開示も求められることになりました。四半期毎の業績推移を分析することで、業績のトレンドをタイムリーに知ることができ、企業業績の状況をより明確に把握することができるようになったのではないでしょうか? 関心のある企業の四半期業績を推移分析してみると、新たな発見があるのではないかと思います。

ただ、四半期開示によって、経営者の方々はより短期的な業績追求が求められるようになり中長期的な戦略策定が難しくなったという話も聞かれるところであり、難しい面もあるようですが…。

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セミナーのご案内(11/11・大阪)

来る11月11日(水)に、株式会社オービック様の情報システムセミナー2009年秋で講演をさせていただくことになりました。テーマは「中間管理職向け財務分析入門」ということで、決算書の読む時の視点のご紹介(ROA・利益とC/Fとの違いなど)をさせていただくとともに、昨今話題になっているIFRSとこの財務分析の視点との関連性についても少しお話させていただきたいと考えております。

私の講演の概要は以下の通りです。

日時:平成21年11月11日(水)16:00~17:00

会場:株式会社オービック オービックコミュニケーションプラザ(エプソン大阪ビル)

受講費:無料

詳しくは、株式会社オービック様のHPをご覧ください。⇒http://www.obic.co.jp/fair/osaka.html

私の講演以外にも興味深いテーマの講演がたくさん企画されています。ご関心のある方は是非一度足をお運びください。

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包括利益に関する一考察②

石川先生の論考は、最後に以下の言葉で締めくくられています。

「OCIのO(other)は、純利益ではない「その他」の包括利益という点で、そもそも純利益あってのOCIといえる。仮に純利益を重視しないなら、OCIのOは不要、つまりそこには包括利益(CI)ただ1つとなる。となると、結局、リサイクリングするか否かの考え方の対立は、何が利益なのかに関する考え方の基本対立に帰着する。純利益ではなく包括利益を中心にすれば、純利益もOCIもいずれもCIという「利益」概念に包摂される。その究極は包括利益一本化である(純利益をなくす→OCIをなくす)。この点からみれば、改訂案での2つの方法の選択には、なお純利益が前提にされている。純利益への影響を回避するためOCIに計上してもよい、という「配慮」もその前提あってのことといえる。たが、その前提を取り去れば、そもそもその選択には意味がなくなる。ここに、冒頭でみた今回の改訂案の「配慮」の意味合い(逆にみればIASBの本音)が見えてくる。」(週間経営財務 平成21年10月5日号より)

日本は、「純利益は特定期間における包括利益のうち、その期間中にリスクから解放された投資の成果であって、報告主体の所有者に帰属する部分」(討議資料「財務会計の概念フレームワーク」より)であって、その他包括利益との間に一線を画そうとする立場であると考えられます。それを切り分けるものは何か? それは投資をリスクから解放するという経営者の意思決定に他ならないと考えられます。その経営者の意思決定及び成果を明確に示すことは極めて重要なのだという見解です。この考え方が国際的にどの程度評価を受けているのか、私には知る由もありませんが、もし石川先生のおっしゃるように、その区分がIFRSに残っていること自体「配慮」なのだとしたら、我々は将来「利益とは何か?」という考え方を根本的に改めなければならない日がやってくるかもしれないと考えるのは、少し大げさなのでしょうか。

実は、こうしたことを考えながら、会計・監査ジャーナルの8月号に掲載されたIASBのトウィーディー議長へのインタビュー記事を読んでみると、いくつか興味深いコメントをされていることに気がつきました。ここでは、その内容を要約してまとめてみたいと思います。

・日本が、持ち合い株式の価値の変動から生じる損益の損益計算書への計上を望んでいることはないと思われる。一方で、持ち合い株式は、当初からキャピタルゲインを狙っているものでもないため、私たち(IASB)は戦略投資という別の分類(売買によって運用しない項目)として設定することを検討している。

この問題はある意味で損益計算書をどのように見るべきかを示している。リサイクリングの概念が日本で非常に強力なのは、ある種の純利益という考え方を信じていて、すべてがいずれ純利益に帰属しなければならないと信じられているためである

興味深いのは、世界のどこにもこうした議論が起きていないことである。英国は年金でリサイクリングをしないし、再評価損益をリサイクリングしないが、それが問題にならない。しかし、日本には他のほとんどの国にない「リスクからの解放」という概念がある。これは他国と違う概念である。

トウィーディー議長のコメントの中で、特にリサイクリングの問題について、日本の「リスクからの解放」という概念の特異性を指摘しているところは興味深く感じました。つまり、リサイクリングの問題そのものについて誰も関心を示さないとすれば、そもそも当期純利益の表示の意義自体が問われてしまうのではないか、言い換えれば、利益の表示は包括利益に一本化ということにつながっていくのではないかということです。

こうしたことからも、今回の持ち合い株式の会計処理は、金融商品の会計処理の問題にとどまらず、利益とは何か?、損益計算書(包括利益計算書)をどのように理解するのか?という観点で理解することも重要だと感じた次第です。

(おわり)

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包括利益に関する一考察①

前回のブログでも触れたように、持ち合い株式の評価損益の取扱いを通して、包括利益について、もう少し考えてみたいと思います。

現行の日本基準をベースにして包括利益を考えてみると、概ね評価・換算差額に入っている項目がその他包括利益(OCI)となり(未認識数理計算上の差異のようにルールそのものが変わるケースもありますが)、これに当期純利益を加えたものが包括利益となるということになろうかと思います。まさに、「当期純利益+その他包括利益(OCI)=包括利益」ということです。よって、株主資本の内訳等には多少影響を与えるものの、その多くは貸借対照表で認識済の項目であり、まさに表示の問題なのだと理解されるわけです。(包括利益の定義はフレームワークではなく、IAS第1号で述べられていることとも合致しますね。)

しかし、今回の金融商品基準の公開草案で提案されているように、「株式の公正価値の変動を当期損益に含めるかOCIに含めるかを企業は選択しなさい。リサイクルや測定区分の変更はなしですよ。」という話になってくると、当期純利益とOCIを区分するという話は単なる表示の問題なのか?という疑問が湧いてきた訳です。駒澤大学の石川純治先生は、週刊経営財務に掲載されている現代会計時評という論考の中で、次のように述べられています。

石川先生のHPはこちら ⇒ http://www.komazawa-u.ac.jp/~ishikawa/profile.htm

「リサイクリング問題の基礎に何があるかは何が利益かという利益の考え方と密接にかかわるだけに、本トピックの理論的側面として重要だ。まずリサイクリングする考え方だが、そこでのOCIは売却(処分)前は純利益ではないが、やがてはつまり売却時には純利益になるという点で、純利益に対しいわば暫定的・経過的な性格をもつ。このことは、結局、OCIという利益であっても、それは暫定的・経過的利益にすぎず、その点では利益はただ1つ(純利益)という考え方につながる。これに対しリサイクリングしない考え方はそうした2段階の認識を認めない。OCI区分への帰属は2段階で変化するものではなく、それ以降もその帰属は変わらない。リサイクリングが未実現→実現(あるいは不確定→確定)といった2段階の推移をみているのに対し、始めから別物(いわば第2の利益)という考え方がある。」(週刊経営財務 平成21年10月5日号より)

こうなってくると、最終的に包括利益としては同じ結果が得られるとしても、それが当期純利益なのかOCIなのか、あるいはいったんOCIとして計上されたものが当期純利益にリサイクルできるのかということは、その経済事象をどのように捉えているのかというレベルの話であり、包括利益の導入は、表示の問題をはるかに超えた問題であると考えられます。もう少し、石川先生の論考を読み進めてみます。

「こうした考え方は、実は、1990年代末のイギリスでの業績報告の考え方にみられる。そこでは、経済活動の成果が大きく2つに基本区分される。すなわち、営業活動からの利益計算(①損益計算書)、そしてこれが今回のトピックとかかわるが、経営基盤資産の価値変動および処分からの利益計算(②総認識利得損失計算書)である。今回の改訂案も、この観点からみればいくつかの点が見えてくる。すなわち、2段階の損益認識を行わない、つまりリサイクリングをしない考え方の基礎に経営基盤資産の時価変動という見方がある。持ち合い株式を戦略投資、つまりそこでの経営基盤資産とみれば、それは最後まで②の利益計算の枠にとどまる。受取配当金もまた売却損益も、本体の株式投資がそのような性格である限り同様の扱いになるわけである(時価変動損益、受取配当、売却損益の会計処理の一貫性)。」(週刊経営財務 平成21年10月5日号より)

このように、持ち合い株式の公正価値変動を当初から当期純利益に含めないとする考え方は、利益に対するボラティリティ(不安定さ)やそれが処分されるまでの間の一時的な純資産の変動といった単純な議論では整理されないことが分かります。(もしかしたら、そのように整理していたのは、私だけなのかもしれませんが…)

(次回に続く)

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どうなる?持ち合い株式の会計処理

最近、IFRSにおける持ち合い株式の会計処理が新聞を賑わしています。新聞以外の情報も含め、その内容を整理してみたいと思います。

金融商品会計基準の見直しについては、IASB(国際会計基準審議会)とFASB(米国財務会計基準審議会)との共同プロジェクト(MOU)において取り上げられている1つの項目となっています。取り上げられているテーマは、金融商品の分類及び測定、減損処理、ヘッジ会計などがあるようですが、金融商品の分類と測定については、昨年のリーマンショック以来の混乱を踏まえて、金融商品の分類(測定区分)の簡素化の要請があり、他のテーマよりも前倒しで検討が進められたようです。分類と測定については、2009年7月に公開草案が公表され(新聞紙上ではこの頃から頻繁に取り上げらるようになったと考えられます。)、2009年中に最終基準として取りまとめられることが予定されています。

7月に公表された公開草案の概要

債券(負債金融商品)については公正価値評価するものと償却原価評価するものの2区分が提案されています。ただし、償却原価評価できるものは、①基本的な貸付金の特徴を持っている、②契約金利に基づいて管理されている、の要件を満たすものでなければならないとされています。また、公正価値区分と償却原価区分との振替を禁止するなどの取扱いが提案されています。

一方、株式(持分金融商品)については公正価値測定(時価評価)のみとされています。このうち、売買目的で保有されているものについては、その公正価値の変動はすべて当期純利益に含められますが、それ以外のもの(いわゆる持ち合い株式)については、当初において経営者がその公正価値の変動を当期純利益に含めて計上するのかその他包括利益(OCI)として計上するのかを選択することができるとされています。また、公正価値の変動をOCIとして計上する場合には、その株式を売却した時の損益を当期純利益に含める(リサイクル)の処理が認められず、さらに、受取配当金もOCIで計上することが求められています。一方で、減損処理(評価損を当期純利益に含めて処理する)必要もなくなるということになり、結局、公正価値の変動をOCIとして処理する株式については、その株式に関連する一切の損益をOCIで計上することが求められている訳です。

企業が売買目的以外の目的で保有する株式が多い日本にとっては、この公開草案のインパクトは相当大きく、公正価値の変動(すなわち評価損益)を当期純利益に含めるという選択をしなければ、配当金や有価証券売却益も当期純利益に含めることができないというルール変更を強いられることになる訳です。当然、日本はこの公開草案に反対の立場を表明していました。

10月15日・16日の日本経済新聞の記事によれば、IASBの臨時会合において、公正価値の変動をOCIで処理する株式の配当金を当期純利益に含めることも認める決定がなされたようです。一方で、株式の処分損益のリサイクルは認めない方針が維持されているようです。10月15日の日本経済新聞に掲載された、IASBのトウィーディー議長のインタビューの中に「30年間保有していた持ち合い株式をある日突然売却したとして、それが純利益に計上されるとすれば、当期の本業で稼いだ利益が見えなくなる。」とのコメントがあります。確かに、この持ち合い株式の売却損益に関して言えば、トウィーディー議長の指摘は的を得ていると思いますが、当期純利益は本業で稼いだ利益だけが計上されているものなのでしょうか?(そもそもIAS第1号では、包括利益計算書においていかなる収益・費用も異常項目として表示することは認められていませんが。) 

結局、この問題は「当期純利益が何を表現するのか?」という問題、言い換えれば「何が損益で、何がその他の包括利益になるのか?」という問題につながってくるように思えるのです。新聞記事には、配当金の会計処理の変更は日本への配慮の結果だという風に書かれていましたが、そんな政治的配慮で会計基準が決まってしまっていいのでしょうか? その辺りのことについて、少し私見を次回のブログで書いてみたいと思います。

(※)今回のテーマからは外れますが、公開草案では非上場株式についても一律に公正価値評価が提案されており、これが基準化されると経理実務には相当大きな影響を与える可能性があると考えられます。

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