会計基準の改正を解説

ゴーイングコンサーン注記の規定改正(その3)

ゴーイングコンサーン注記の要否を判断する基準が改訂されたことで、これまでゴーイングコンサーン注記を記載していた企業が注記を行う必要がなくなるケースも相当発生するのではないかと考えられます。このようなケースでは、これまで開示されていたものが開示されなくなることになり、しかも、内容がゴーイングコンサーンに重要な疑義を与える事象・状況に関するものですから、相当な情報開示の後退となる危険性があります。

そこで、企業内容等の開示に関する内閣府令(有価証券報告書の記載要領)も合わせて改正がなされ、ゴーイングコンサーン注記としての開示対象にならなかったものでも、ゴーイングコンサーンに重要な疑義を与える事象・状況については、「事業等のリスク」として記載することが求められるようになり、また、これらの対応策について、「財政状態及び経営成績に関する分析・検討」のところで記載することが求められるようになりました。

これが、いわゆる経営リスクの2段階開示と呼ばれる仕組みです。簡単にまとめてみると、

ゴーイングコンサーンに重要な疑義を与える事象・状況

 ・重要な不確実性あり → ゴーイングコンサーン注記として記載(監査対象)

 ・重要な不確実性なし → 事業等のリスク等として記載(監査対象外)

有価証券報告書の仕組みから言えば、これまでと同じレベルの情報開示を求めている訳ですから、その点については特に問題はないのではないかということになります。やはり、今回の改正で最も重要なのは、監査対象となるゴーイングコンサーン注記としての記載を求めるか否かの判断であろうというのが私の率直な感想です。

ただ、今回のルール改正は2009年3月期決算から適用となる上、企業会計審議会の監査基準の改訂に関する意見書も4月10日付で正式に公表される等、作業は急ピッチで進められています。しかし、このデュープロセスの短さがかえって企業への政策的な配慮として受け止められている側面もあるようです。(参考:4月7日付の日本経済新聞朝刊記事)

確かに、今回の改訂は、IFRSとの整合性を図るという点や本来あるべきゴーイングコンサーン注記のあり方を示しているという側面があることは私も理解できる部分です。しかし、あまりに唐突な見直しであるがために(本当はそうではないのかもしれませんが)、監査人の対応にかなりのバラツキが出てきそうな懸念もありますし、今回の改訂自体が経営リスクの情報を隠そうとするものという印象を与えかねないということには留意しておく必要があるかと思われます。

いずれにしましても、2009年3月期決算にどのような影響を与えるのか、また、これらの情報開示の動向が株価や信用リスク等の財務活動にどのような影響を与えるのか注目しておく必要がありそうです。

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ゴーイングコンサーン注記の規定改正(その2)

前回のブログでは、ゴーイングコンサーン(継続の企業の前提)注記の要否を判断するルールが変更になったことについて触れました。これまでは、ゴーイングコンサーンに重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在した場合には注記が求められていましたが、改正後のルールにおいては、そのような事象又は状況が存在し、かつ、これらに対して経営者が対応を行ってもなお重要な不確実性が存在し、さらに、貸借対照表日以後もその不確実性が引き続き存在している場合に、注記が求められることになります。では、ゴーイングコンサーンに関する重要な不確実性とは一体何なのでしょうか?

日本公認会計士協会の監査基準委員会報告書第22号「継続企業の前提に関する監査人の検討」の公開草案によれば、以下のような記述が存在します。

「継続企業の前提に関する適切な注記が、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を財務諸表の利用者が適切に理解するために必要であると監査人が判断した場合には、継続企業の前提に関する重要な不確実性が存在していることになる。継続企業の前提に関する重要な不確実性が存在しているかどうかにつては、当該不確実性がもたらす影響の大きさ及びその発生可能性に基づき、実態に即して判断する。」

この指針の解釈については、様々な意見が出てきそうな感じがしますが、「その財務諸表にゴーイングコンサーン注記が記載されていなければ、監査人として意見表明ができないと判断するほどゴーイングコンサーンに対して不確実性がある(リスクが高い)と判断されるような場合には、ゴーイングコンサーン注記が求められる」と私は解釈しました。

研修会の後、何人かの同業者(公認会計士)の方とこの点についてお話をしたのですが、今後以下のような問題点が出てくるのではないかとのご意見を伺いました。

① 結局ゴーイングコンサーン注記の要否の判断が監査人に委ねられる形となってしまっている。基準等の改訂の趣旨は、ゴーイングコンサーンに対して重要な不確実性が存在する場合にのみ注記を求めることで、ゴーイングコンサーン注記を減らそうとするものと考えられるが、監査人もリスクに対して保守的に考える傾向が強い中で、適切な判断が行えるのか?

② 重要な不確実性が存在する場合にのみゴーイングコンサーン注記が付されることになると、ますます、この注記が倒産予測情報として受け止められる可能性が高まるということはないのか?(改訂後もゴーイングコンサーン注記は倒産予測情報としての位置付けではないということに変わりはありませんが。) とすれば、企業側はゴーイングコンサーン注記を回避するための主張を強めてくる可能性があり、①の問題とも相まって監査人側の判断が非常に難しくなるのではないか?

この②についてですが、これまでの監査基準では、ゴーイングコンサーンに重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在した場合には、経営者の評価に加え経営計画等の合理性についても監査人は検討することが求められていましたが、改訂後の基準では経営者の対応策について検討することになっています。一見単なる言葉の違いに思えそうですが、これもそうではないようです。

これまでは、一般的にゴーイングコンサーン注記に関する監査を行う場合には取締役会の承認を受けた合理的な計画が必要とされていたために、監査人が最終的な結論を下せる(監査意見を表明できる)状況に至らなかった事例も散見されたように思われます。今回の基準の改訂により、監査人は経営者の対応策について検討を行うこととされており、恐らくこれまでよりも監査証拠として認められるものの範囲が広がるのではないかと考えられます。このように考えていくと、「監査証拠は広く採用しなさい。注記の要否は重要な不確実性が認められる場合に限定しなさい」ということになって、リスクに対して保守的になりつつある監査人側のスタンスとは大きくかけ離れる面があるのではないかと危惧するのです。この点については、私自身が監査の現場を離れていることもあり、正しく理解できているか自信がない部分もあります。実際に監査に携わっていらっしゃる方々のご意見を伺いたいところです。

(次回につづく)

 

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ゴーイングコンサーン注記の規定改正(その1)

先日、日本公認会計士協会主催の監査事例研修会に参加してきました。そこで、継続企業の前提(ゴーイングコンサーン)に関する注記の取扱いに関する改正内容についての解説があったのですが、非常に興味深い内容でしたので、まとめてみたいと思います。

これまでのルールでは、ゴーイングコンサーンに重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在すれば、直ちに企業は財務諸表において「継続企業の前提に関する注記」(以下、ゴーイングコンサーン注記と呼ぶ)、すなわち、重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在する旨及び内容、ゴーイングコンサーンに関する重要な疑義の存在、重要な疑義の影響を財務諸表に反映しているか否かを記載することが求められていました。つまり、ゴーイングコンサーンに重要な疑義を抱かせる事象や状況が存在するだけで、ゴーイングコンサーン注記の記載が求められていたということになります。この事象又は状況については、日本公認会計士協会の監査・保証実務委員会報告第74号「継続企業の前提に関する開示について」の中で例示的に示されていますが、広い領域にわたって検討が行われることとなっています。

このため、最近の企業業績の急激な悪化に伴って、財務諸表にゴーイングコンサーン注記を記載する企業が増えてきているという状況が起こっていたようです。一方で、このルールは平成14年の監査基準の改訂によって導入されましたが、以下のような問題点も指摘されていたようです。

・これまでのゴーイングコンサーン注記は、ゴーイングコンサーンに重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在すれば、画一的に財務諸表の注記を求めていたため、適切な対応策が講じられた結果、倒産のような最悪の事態に至ったケースは決して多くはない。その一方で、最近の厳しい経済情勢の中では、注記が破綻予測情報として受け取られ、円滑な企業活動の阻害要因となっているという指摘がある。

・平成14年の監査基準の改訂においては主に米国基準を参考にして基準開発が行われていたが、IFRSにおいては「継続企業としての存続能力に重大な疑問を生じさせるような事象又は状態に関する重要な不確定事項を発見したときには、その不確定事項を開示しなければならない」とされており、これまでのルールとの間には差異がある。また、近年のIFRSとのコンバージェンスの動きの中で米国基準にも改訂の動き(昨年に改訂基準の公開草案を公表)があるため、これらと整合的でないとの指摘がある。

これを受けて、今回の監査基準の改訂においては、以下のようなステップを踏んでゴーイングコンサーン注記の要否を検討することとしています。

① 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象・状況が存在するかどうか?

② ①のような事象・状況が存在する場合に、これらを解消・改善するための対応してもなお重要な不確実性が存在するかどうか?

③ 貸借対照表日後も継続企業の前提に関する重要な不確実性が存在するかどうか?

これら3つのステップを踏んだ結果、なお継続企業の前提に関する重要な不確実性が解消されていないと判断された場合は、ゴーイングコンサーン注記の記載が求められることになります。注記の記載内容としては、重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在する旨及び内容、経営者の対応策、重要な不確実性が認められる旨及び理由、重要な不確実性の影響を財務諸表に反映しているか否かを記載することとなります。

これまでのように継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象・状況が存在するかどうか?ではなく、継続企業の前提に関する重要な不確実性が存在するかどうか?がポイントになるわけです。これまでの基準は、かなり幅広く網にかけて注記を促すことによって、いわゆるゴーイングコンサーンの問題を回避していたように思いますが、改訂基準では、本当にゴーイングコンサーンに対する確証が得られない場合にのみ注記が求められるという点で、ある意味では、ゴーイングコンサーン注記の「あるべき姿」になってという印象もあります。しかし、実務上は、この不確実性の有無を判断することが相当難しくなるのではないかという印象を受けました。次回は、その辺りのことについて述べてみたいと思います。

(次回につづく)

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外国子会社配当金の益金不算入制度(その2)

平成21年度税制改正によって導入された「外国子会社配当益金不算入制度」ですが、これが会計の取扱いにも微妙(ではないかもしれませんが)な影響を及ぼしています。それが、税効果会計に関する取扱いです。

日本公認会計士協会は、2009年3月19日に税効果会計に関する実務指針及びQ&Aの改正に関する公開草案を公表しています。

①連結財務諸表における税効果会計

留保利益に係る一時差異に対して繰延税金負債を認識しなければならないケースを示している第34項(留保利益に係る一時差異)の記述が一部変わっています。これまでは、「親会社と当該子会社の所在する国又は地域における税率の差により追加納付税金が発生する場合」とされていましたが、今回の改正により「配当等のうち税務上益金不算入として取り扱われない部分(配当等の5%)及び当該該当等に対する外国源泉所得税が損金不算入となることにより追加納付税金が発生する場合」となっています。つまり、今回の税制改正によっても、留保利益に係る一時差異に対する税効果は認識しなければならないことになります。

留保利益に係る一時差異に対して認識しなければならない繰延税金負債の額は、在外子会社の留保利益のうち配当されないことが確実な部分を除いた部分がすべて配当された場合に発生する追加納付税金ということになります。よって、改正後の税法に従えば、将来配当が予定される留保利益(子会社決算日の為替相場で換算)×(5%×実効税率+外国源泉税率)ということになります。

②個別財務諸表における税効果会計

今回の税制改正により、配当等に係る外国源泉所得税の外国税額控除(直接税額控除)ができなくなり、また間接税額控除も廃止されるため、繰越外国税額控除に対する繰延税金資産の回収可能性を判断するにあたっての判断基準が大幅に変わることとなります。(基本的には、在外支店の所得のような国外源泉所得がなければ、回収可能性はなくなってしまうのではないでしょうか?)

この改正の適用事業年度ですが、平成21年度の税制改正法案の公布日が平成21年3月31日となったため、3月決算会社においては、平成21年3月期(つまりこれから行われる決算)から適用になります。4月2日付の日本経済新聞朝刊によれば、海外子会社の配当によって生じる課税に備えて多額の引当(繰延税金負債)を計上している企業では、これらの取崩が検討されており、最終利益を一時的に押し上げる効果があるとされています。

一方で、これまでは在外子会社の留保利益は配当しない方針として、繰延税金負債を認識していないかったような企業が、今回の税制改正を機会として、在外子会社の留保金の親会社への配当を行う方針に転換するようなケースでは、平成21年3月期決算において繰延税金負債(言い換えれば、法人税等調整額の借方)を認識することとなるため、最終利益を押し下げる影響を与えますので、十分注意が必要です。

また、少し別の観点ですが、繰延税金資産の回収可能性の判断するにあたって将来の課税所得の発生額を見込む場合には、この外国子会社配当が益金不算入になる影響(すなわち、課税所得が押し下げられる影響)も加味することが必要になります。(税効果会計に関するQ&A Q.12参照) これによって、繰延税金資産の計上が認められなくなるケースもあるかもしれません。

このように、今回の制度改正は平成21年3月期の決算数値に色々な影響を与えることも予想されますので、早急に会計・税務へのインパクトを検討し、在外子会社の配当方針をどのように考えるのか(これまで通りか、変更するのか)を経営上意思決定する必要がありそうです。

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外国子会社配当金の益金不算入制度(その1)

去る3月27日、「所得税法等の一部を改正する法律」が国会で可決・成立し、いわゆる平成21年度税制改正の内容が確定しました。以前、このブログでも触れましたが、外国子会社配当益金不算入制度が導入されることとなり、海外に子会社の保有していらっしゃる企業の方の中には、外国子会社から配当を受け取るのかどうかについて検討する中で、会計や税務のインパクトを調べられている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

外国子会社配当益金不算入制度の内容について、簡単にまとめてみたいと思います。(この内容は、1月23日に閣議決定された平成21年度税制改正の要綱に基づいて記載しています。必ず、最終の法律改正の内容をお確かめいただくようお願い致します。)

・間接外国税額控除制度を廃止し、内国法人が外国子会社から受ける配当等の額について、その内国法人の所得金額の計算上、益金の額に算入しない(益金不算入とする)制度を導入する。 ⇒なお、外国子会社とは、その内国法人が外国法人の発行済株式等の25%以上の株式等を、配当等の支払義務が確定する日よりも6ヶ月以上前から引き続き直接に有している場合を指します。(一部、租税条約の規定により異なる割合が定められている場合があります。) 

・上記の益金不算入制度を適用する場合、その配当等の額の5%に相当する金額は配当等の額から控除する。 ⇒すなわち、配当全体のうち、5%は課税の対象になるということです。

・配当等の額に対して課される外国源泉税等の額は、その内国法人の各事業年度の所得金額の計算上、損金の額にも算入されず、また、外国税額控除の対象ともならない。 ⇒後述しますが、ここも大きく変わるポイントと思われますのでご注意ください。

・これらの制度の適用は、内国法人の平成21年4月1日以後開始する事業年度(平成22年3月期)以降に受け取る配当金及び外国源泉税等の額について適用する。

以下の設例で、課税関係を確認してみてください。

A社は、外国に所在する子会社から配当金を受け取った。配当金を受け取った日の為替レートによる配当金の円換算額は10,000であったとする。この配当金に対しては10%の源泉税が課されるものとし、日本での実効税率は40%とする。

<日本法人が負担することとなる税金金額>
外国源泉税   10,000×10%=1,000(※1)
日本での納税額 10,000×5%×40%=200(※2)

(※1)日本では損金算入及び外国税額控除が認められなくなるため、外国子会社で源泉された税額は、最終的に日本法人がそのまま負担することになる。

(※2)配当金の金額のうち5%部分は益金不算入が認められないので法人税の課税対象となり、その結果、住民税及び事業税も課税される結果となる。ここでは、計算の便宜上、実効税率を乗じて日本での納税額を計算している。

上記の設例では、10,000の配当金に対して1,200(12%)の税負担が発生することになりますが、この税負担の割合は源泉税率の高低によって大きく左右されるのではないかと思われます。2国間の配当金に関する源泉税率は租税条約で定められている場合が多く、国によって取扱いがまちまちですので、今回の税制改正のメリットを享受できるのかどうかについて、少し慎重に検討する必要があるのではないかと思いました。

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金融商品の時価開示(その3)

今回は、金融商品の時価等に関する事項の開示の取扱いについて触れてみたいと思います。

以前にも触れたように、原則として金融商品に関する貸借対照表の科目ごとに、貸借対照表計上額・貸借対照表日における時価・その差額・時価の算定方法を開示することが求められます。ここで1つ気をつけなければならないのは、今回の改正でこれまで開示対象とされていた有価証券及びデリバティブ取引のみならず、金融商品全体について時価に関する情報を開示しなければならなくなったという点です。

会計基準第6項において、時価とは公正な評価額をいい、市場価格がある場合には市場価格に基づく価額、市場価格がない場合には合理的に算定された価額を公正な評価額とするとされています。よって、これまで開示対象ではなかった金融商品(すなわち、現金預金・金銭債権といった金融資産や金銭債務のような金融負債)についても時価を合理的に算定することが求められるということになります。

適用指針に示されている開示例を見ると、現金預金、受取手形、売掛金のように短期間で決済されるものについては、時価は帳簿価額にほぼ等しいと考え帳簿価額を開示することも認められるようですが、長期貸付金や長期借入金・社債のように決済まで時間を要するものについては、信用リスクを加味した形での割引現在価値が時価であると考えられています。この辺りは、単純に貸付金や借入金は額面で決済されるものであるから、時価は帳簿価額と同じと考えるわけにはいかないようです。

適用指針では、金融商品の種類ごとに細かく取扱いが定められていますので、少し詳しく見ていくことにしましょう。

有価証券については、基本的従来開示が求められていた事項について引き続き開示が求められることになります。1点だけ変わった点といえば、有価証券の減損処理に関する注記(説明)については、従来記載が望ましいものとされてきたように思いますが、今回の基準では、記載が求められることになっています。(適用指針第4項(2)⑤)

デリバティブについては、1点大きな改正点があります。従来ヘッジ会計を適用しているものいついては、時価に関する注記の記載を省略することができる取扱いがありましたが、今回の改正ではヘッジ会計を適用しているものについても時価等に関する開示が必要になっています。(適用指針第4項(3)②) これは、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益の相殺やヘッジ対象のキャッシュ・フローの変動の回避が常に完全になされるわけではないこと(当然ヘッジの有効性は求められることに変わりはありませんが)、デリバティブ取引全体の定量的な情報を開示する方が財務諸表との関連や他の金融商品との関連が明確になると考えられること、国際会計基準等では、ヘッジ会計が適用されているデリバティブについても時価等の開示が求められていることが改正の理由として挙げられています。

金銭債権や満期がある有価証券(売買目的有価証券は除く)については、償還予定額(入金予定額)を一定の期間に区分して開示することが求められています。(適用指針第4項(4)) これまでも有価証券については同様の記載が求められていましたが、今回の改正では、金銭債権全体に開示対象が広げられています。この辺りは、企業の将来キャッシュ・フローに関する有用な情報を提供するという国際会計基準の流れが大きく反映
されているように思われます。

金銭債務については時価の開示に加え、約定金利に金利変動のみを反映した利子率や無リスクの利子率で割り引いた金銭債務の割引現在価値を開示することができるとされています。(適用指針第4項(6)) これは、企業自身の信用リスクが増加した場合に、金銭債務の時価が下落するという矛盾に対処するために設けられた規定とのことです。

このように、金融商品の時価開示に関する会計基準(適用指針)が整備された矢先の今回の事態です。今後、時価会計やこのような開示の取扱いがどのようになっていくのかはまだ予断を許しませんが、こうした会計のルールが何を伝えようとしているのか今回の問題は会計のルールに不備はなかったのか(まったくの政治的な問題だけなのか)というようなことを整理しておく必要があろうかと思います。そこで、次回のブログでは、10月17日・18日の日本経済新聞に掲載された時価会計一部凍結に関する記事の内容について、まとめてみたいと思います。

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金融商品の時価開示(その2)

金融商品の時価開示の2回目は、もう少し開示の内容について詳しく触れていくことにしましょう。

金融商品の状況についての開示項目は、適用指針に詳しく記載があります。

①金融商品に対する取組方針

金融資産であれば資金運用方針、金融負債であれば資金調達方針を記載し、具体的な運用及び調達の手段(内容)も記載することになります。財務のご担当の方であればおわかりになられると思いますが、日々の財務活動においてはそれなりに方針を持って、また、資金の運用・調達手段もあらかじめ定められており、新しい商品を取り扱う場合は取締役会等の承認をとっていらっしゃることと思います。

ですが、あらためて、開示文書の中で「御社の資金運用・調達方針は?」と問われると、作文に困ってしまうケースもあるのではないでしょうか? まさに、この辺りは会社としてどこまで明確にできているか、もうちょっと言えば、明文化できているのかということになってくるのではないかと思います。

②金融商品の内容及びそのリスク

金融商品の内容については、会社が取り扱っている金融商品の種類を示し、その簡単な説明を記載するということで、特に問題はないかと思います。一方、リスクですが、適用指針には取引先の契約不履行に関するリスク(信用リスク)、市場価格の変動に関するリスク(市場リスク)、支払期日に支払を実行できなくなるリスク(資金調達に関する流動性リスク)などが挙げられています。市場リスクについては、金利や為替といったリスクの種類ごとに記載することが求められ、信用リスクについては、取引先の信用度だけではなく、特定の取引先あるいは地域に取引が集中していることの影響度合なども記載が求められています。

また、リスクが高い複合金融商品やデリバティブの時価の変動率が高いと考えられるような特殊性のある金融商品の概要も記載が求められています。さらに、デリバティブ取引の場合にはその利用目的も記載し、ヘッジ目的のデリバティブの場合には、従来から開示が要求されているヘッジ方針、ヘッジ手段とヘッジ対象、ヘッジの有効性の評価方法等に関する記述も求められます。この辺りは、これまではデリバティブ取引に限定されていた定性的な情報の開示が金融商品全般に広がることで、会社の財務活動が非常に明瞭になると思われる反面、会社の財務的な弱みが明らかになるのではないかと個人的には懸念するところです。

③金融商品に関するリスク管理体制

これには、リスク管理方針、リスク管理規程、管理部署の状況、リスクの減殺方法や測定方法が含まれるとされています。リスク管理方針やリスク管理規程といったものは、いわゆる内部統制構築への取り組みの中で準備されている会社も多いのではないかと思います。しかし、リスク管理の運用レベル(すなわち管理部署の活動状況やリスク評価への取り組み)ということになると、その対応は様々ではないでしょうか? 特に、中小規模の会社におかれては、リスク管理の必要性は感じながらも、定量的な評価といったところまで人員を割くことができないという問題もあるのではないかと感じます。

また、ここでは、金融商品に係る市場リスクの定量的情報の記載をどこまで求めるかということが議論になりました。この金融商品に係る市場リスクの定量的情報の代表例としては、ベーシス・ポイント・バリュー(例えば、金利が1ベーシス・ポイント(0.01%)変化した場合の金融商品の価値変動)やバリュー・アット・リスク(市場の変動等に基づき、今後の一定期間において特定の確率で、ある金融商品の生じ得る損失額の推計値)が挙げられ、このような情報は非常に有用性が高いとして、IFRSでも企業の判断でその開示を行うこととされているようです。しかし、銀行等の一部業態を除いては、このような情報の入手は困難であるとして、日本基準では、資産負債に占める金融商品の割合が重要であり、市場リスクに係るリスク変数(金利、為替、株価等)への感応度が重要である企業に限定して、このような市場リスクの定量的情報の記載を求めることとなっています。

話は、また金融危機問題に戻ってしまいますが、こうした市場リスクの定量的評価といった手法は今日も機能しているのでしょうか? とても興味があるところなのですが、もし機能していないとなると、やはり今回の金融危機は人間の想定を超えるようなレベルのことが金融市場(金融商品)の世界で起きていると考えるべきなのでしょうか? いずれにせよ、今回の金融危機問題は、後にきっちりと総括しておく必要があるのだろうと感じる今日この頃です。

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金融商品の時価開示(その1)

昨今の金融危機を契機として、その存在意義が問われている金融商品の時価評価問題ですが、今年の3月にASBJは改正企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下、改正基準とよぶ)及び企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(以下、適用指針とよぶ)を公表していました。今日は、この内容について触れてみたいと思います。

ASBJが公表している改正会計基準等の概要によれば、今回の改正の背景は、金融取引を巡る環境が変化する中で、金融商品の時価情報に対するニーズが拡大していることを踏まえて、金融商品についてその状況や時価等に関する開示の充実を図るためとされています。

半年前に公表された会計基準ですが、既に経済状況の認識が変わっていることに驚きすら感じます。現状においても、金融商品の内容に対する情報要求というのは、それなりに大きいものがあると思われますが、何せ金融市場がこのような状況ですから、その定量的情報(すなわち時価情報)の信頼性については、非常に問題が大きくなってきています。

今日もある方との会話の中で、株式のようにたった1日でその時価が10%も変わってしまうような金融商品の時価情報をある一定時点で切り取って開示することに意味があるのかという話になりました。このような考え方が、金融商品の時価評価凍結の議論にもつながっていってるのだと思われますが、私の考えでは、それは金融商品の時価評価に問題があるのではなくて、半年に1回しか決算をしていないために起きている問題ではないかと思います。

現実的に可能かどうかは別問題として、時価の変動が大きいことが問題なのであれば、金融商品の時価開示だけは毎日行うというような問題解決の方法もあるのではないかと思うのです。それを、とにかく「臭いものにはふたをしてしまえ」というような発想で解決しようとするのは、いかがなものかと思うわけです。(それで、今の金融市場に対する不信感は払拭できないと私は思うのですが)

話は戻って、このような背景を踏まえて、改正基準では、次のような事項を開示することを求めています。

①金融商品の状況に関する事項…金融商品に対する取組方針、金融商品の内容及びリスク、金融商品に係るリスク管理体制 など

②金融商品の時価等に関する事項…金融商品に関する貸借対照表の科目ごとに、貸借対照表計上額・時価・その差額・時価の算定方法

細かな話は後ほど触れるとして、一番大きく変わったのは、これまでも有価証券やデリバティブなど一部の金融商品に関して開示が求められていた事項が金融商品全般に広がったことが大きな特徴です。ここで、金融商品とは金融資産及び金融負債からなり、金融資産であれば、有価証券やデリバティブに加えて、現金預金・受取手形・売掛金・貸付金といったものが含まれることになり、金融負債であれば、支払手形・買掛金・借入金・社債といったものが含まれることになります。

つまり、会社の財務活動全般に関する状況の記載が求められるわけです。会計基準の適用は平成22年3月31日以後終了する事業年度の年度末の(連結)財務諸表からとなっていますが、今一度会社の規程類や組織体制を見直しておく必要があるかもしれません。(私見ですが、財務活動に関する全社的統制は、開示に直結するものとなるので、内部統制監査上もゆくゆくは重要視される項目になるのではないかと感じています。)

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セグメント情報を考える(その6)

セグメント情報の会計基準に関するブログもいよいよ今回が最終回です。このマネジメント・アプローチの導入によって、実務の世界に与えるインパクトが非常に大きいと言われていますが、具体的にどのようなインパクトが考えられるのでしょうか? 私見ながら、そのインパクトやなぜこんなに早い時期に会計基準が公表されているのか(実際の適用は平成22年4月1日以降開始する事業年度)について意見を述べてみたいと思います。

マネジメント・アプローチの最大の特徴は、企業の内部管理情報が加工されることなく投資家の目に触れるということです。もちろん、報告セグメントの選定や開示項目が限定されていることから、内部管理情報がそのまま公表されるわけではありませんが、その基礎となる数値は内部管理情報そのものであり、一切の加工が許されていないと理解することができると思います。

このことによって、投資家は「内部管理情報の品質」を評価することが可能になると考えられます。では、私が言う「内部管理情報の品質」とは、一体何を指すのでしょうか?

例えば(極端な例を考えますが)、セグメント情報として資産と利益しか開示されなかったとしましょう。情報の作成者(つまり企業の皆様)にとっては、情報があまり開示されずに秘密が守られるのでいいではないかと考えられるかもしれません。しかし、投資家の立場からすると、経営者はこれ以外の情報を内部管理情報ではセグメント単位で入手できていないということを意味します。売上高や投資に関する情報が開示されていないということは、マネジメント・アプローチでは、経営層がそれらの情報を得ていないということを意味します。果たして、投資家はこのような会社に投資を行うでしょうか?

あるいは(また極端な例を考えますが)、各セグメントでは利益が出ているのに、会社全体としては赤字になっているセグメント情報が開示されたとしましょう。投資家は一体どのようなことを考えるでしょうか? 私なら「この会社の経営層は何ら会社の真実の姿を知らされていない」と考えて、投資を行わないでしょう。しかし、会社の内部管理情報のあり方によってはこのようなケースも想定できるのではないかと思うのです。

これが、私が言う「内部管理情報の品質」なのです。従来、財務会計と管理会計と言えば、まったく別世界のものとして取り扱われるケースが多かったものと思われます。しかし、今回の改正で財務会計の分野に管理会計の情報が使われることになったために、この両者に「有機的な関連性」(私の造語です。何らかの意味を持つ関係性とでも思ってください。)が必要になるのではないかと思うのです。

すなわち、何をしなければならないか? 自社の内部管理情報(管理会計)の見直し、もう少し具体的に言えば、

・投資家の目から見ても十分な内部管理情報が経営層に与えられているかどうか

・財務会計情報との間に著しい乖離がないかどうか、また、その乖離は投資家に対して説明可能なものか

というようなことをチェックすることが必要になるのではないかと思うのです。これは、非常に大きな問題です。管理会計の体系を見直すなんていうことは一朝一夕にはできるはずもありません。ですから、セグメント情報の会計基準がこんなに早く公表されているとも考えられるのです。

このように、セグメント情報の会計基準は経理部門が対処すべき課題というよりも、会社全体が対処すべき課題という要素をはらんでいます。そのことは十分ご認識いただきたいと思います。

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セグメント情報を考える(その5)

セグメント情報を取り上げたこのブログも5回目になりました。前回は報告セグメント(情報開示を行うセグメント)の決定について触れましたが、今回は何を情報開示するのかについて基準を読んでいきたいと思います。

セグメント情報の開示については、大きく以下の3つが求められています。(会計基準17項)

①報告セグメントの概要…報告セグメントの決定方法、各報告セグメントに属する製品及びサービスの種類

②報告セグメントの利益、資産、負債及びその他の重要な項目並びにその測定方法に関する事項

③報告セグメントの各開示項目の合計額とこれに対応する財務諸表計上額との間の差異調整に関する事項

このうち、②については、以下の3つのグループに分けて開示が求められます。(会計基準19項~22項)

a)必ず開示する項目…利益、資産

b)経営者に定期的に提供され使用されている場合に開示する項目…負債

c)aの金額算定に含まれているか他の方法で情報が定期的に提供され使用されている場合に開示する項目…外部顧客への売上高、事業セグメント間の内部売上高又は振替高、減価償却費、のれん(及び負ののれん)償却額、受取利息及び支払利息、持分法投資損益、特別損益、税金費用、その他重要な非資金損益、持分法適用会社への投資額、有形固定資産及び無形固定資産の増加額

以前のブログでも触れましたが、内部報告用の数値を基礎に開示が求められるものの、その開示項目はそれほど詳細なものではありません(内部報告されている数値を雛型まで含めてそのまま開示する訳ではないことに注意が必要です)。極端なケースでは利益と資産しか開示されないセグメント情報もあり得るわけです。とすれば、マネジメント・アプローチの問題点とされてきた企業の内部情報の開示が企業活動に影響を及ぼすという問題点も回避できそうです。それなら、大きな問題もなさそうじゃないかと思われる方も多いかもしれません。

ですが、私はそう簡単な話ではないような気がしています。なぜなのか? 次回は、セグメント情報を取り上げる最終回として、新しい会計基準を適用するにあたって、私が企業の皆さんに考えていただきたいと思うことを書いてみたいと思います。

(補足)セグメント情報の開示については、このブログで触れた項目以外にも、様々な関連情報の開示が求められています。詳しくは、会計基準の原文をお読みになって把握していただきますようにお願い致します。

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セグメント情報を考える(その4)

前回までは、マネジメント・アプローチの導入の影響について考えてきましたが、この辺りで新しい基準の中身にも触れてみたいと思います。

会計基準では、まず事業セグメントの識別(第6項から第9項)という項目があり、さらに報告セグメントの決定(第10項から第16項)という項目が用意されています。

事業セグメントは、次の要件にすべて該当するものをいうと定義されています。(第6項)

・収益を稼得し、費用が発生する事業活動に関わるものであること

・企業の最高意思決定機関が、当該構成単位に配分すべき資源に関する意思決定を行い、また、その業績を評価するために、その経営成績を定期的に検討するもの

・分離された財務情報を入手できるもの

よって、企業の本社や特定の部門のように、企業を構成する一部であっても収益を稼得していなかったり、付随的な収益を稼得するに過ぎない構成単位は、事業セグメントの要件を満たしていないことになります。(第7項) また、最高意思決定機関という言葉については、資源を配分し、業績を評価する主体と定義付けられており、企業の実態に応じて誰を指すのかが変わることに配慮したものと考えられますが、通常は取締役会を指すのではないかと思われます。

さらに、セグメント情報の開示にあたっては、上記の事業セグメントの中から報告セグメントを決定する必要があります。

まず、集約基準と呼ばれるものが用意されています。(第11項) これは、複数の事業セグメントを開示上1つの事業セグメントに集約できるかどうかを判断するための基準であり、①集約することがセグメント情報の基本原則に反しないこと ②集約される事業セグメントの経済的特徴が類似していること ③集約される事業セグメントの製品・サービスの内容、その製造方法や販売方法、市場(顧客)、規制環境などが類似していることが求められます。

その上で、開示すべき事業セグメント(または、集約された事業セグメント)を決定するための量的基準が用意されています。(第12項) これは、売上高・利益・総資産のいずれか1つの項目がすべての事業セグメントの合計額の10%を超える場合は、そのセグメントを報告セグメントとしなければならないこととなっています。さらに、報告セグメントの外部売上高の合計金額が(連結)損益計算書の売上高の75%未満である場合には、これを超えるまで報告セグメントを増やさなければならないと規定されています。(第14項)

企業によっては、比較的小規模な単位で事業セグメントを設けている場合もあり、この場合には非常に詳細なセグメント情報の開示が求められる可能性もあります。ご自身の企業がどの程度詳細な情報開示を求められるのか、シュミレーションしてみるのもいいのではないでしょうか?

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セグメント情報を考える(その3)

会計基準の結論の背景には、マネジメント・アプローチを導入した場合の長所と短所が比較検討されています。

長所(会計基準第47項)

・財務諸表利用者が経営者の視点で企業を見ることにより、経営者の行動を予測することが可能となり、有用な情報を提供することになる。

・経営者が利用するために作成された財務情報を利用することによって、追加的費用が比較的少ない。

・実際の企業の組織構造に基づいて区分を行うため、恣意性が入りにくい。

最後の恣意性が入りにくいというのは、これまでのようにセグメンテーションの仕方そのものが会計基準になってしまっていると、その解釈によって、(特に、事業の種類別)セグメント情報を開示する会社とそうでない会社が生まれてしまう可能性があったように思いますが、組織構造に基づけば、少なくともそのような解釈(判断)が介在する余地がなくなるという意味で恣意性が入りにくいという意味なのでしょう。(組織構造のあり方そのものについては、企業の考え方が反映されるため、恣意的になるのが普通だと思います。)

短所(会計基準第48項)

・企業の組織構造に基づく結果、企業間比較や同じ企業の年度間比較が困難になる。

・内部的に利用されている財務情報を基礎とした情報開示を行うことは、事業活動の障害となる可能性がある。

やはり、最後の問題については、会計基準(結論の背景)にも詳細な記述があることからも重要な検討課題であったということが感じられます。原文を要約してみると、以下のような感じになります。

マネジメント・アプローチを導入することによって生じると考えられる事業活動上の障害としては、より細分化されたセグメント情報を開示する企業は同業他社に対して不利益を被る可能性があるという指摘や特定の顧客・製品・サービスに関するセグメント情報を開示する企業は顧客との交渉において不利益を被る可能性があることが指摘されています。(会計基準第52項)

国際会計基準の検討においても、事業活動上の障害に関する検討がなされたようですが、米国会計基準においては、こうした懸念に対して、以下の事項が指摘されているそうです。(会計基準第53項)

・仮に企業の事業活動上の障害を生じさせる場合であっても、資本市場でのメリットを享受するためには、それは当該企業が負担すべき債務である。

・競争相手は財務情報(セグメント情報)以上に情報を入手している場合が多く、マネジメント・アプローチによるセグメント情報の開示が事業活動上の障害になることはない。

・セグメント情報は単一の事業を行う小規模な企業が財務諸表において開示する情報よりも詳細な情報ではない。(要するに、そんなに詳細な情報を提供させている訳ではないということが言いたいのだと思われます。筆者)

このような議論の過程を経て、国際会計基準や米国会計基準では、開示を免除するというような例外的な取扱いは設けられていません。日本においても、議論の結果、同様の結論となった訳です。

このセグメント情報でも見られるように、最近の会計基準の検討過程では、財務情報が投資家にとって有用な情報を提供できるかどうかという点に焦点が絞られており、従来の日本の会計基準の検討過程であったような実務上の配慮といったものがほとんど見受けられません。これが、「国際会計基準は理論的過ぎる」といった批判にもつながっているように思われます。その是非を簡単に論じることはできませんが、このような思考を我々がどのように受け止める(受け入れる?)べきなのか、じっくり考えてみる必要がありそうです。

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セグメント情報を考える(その2)

新しいセグメント情報の会計基準では、「マネジメント・アプローチ」と呼ばれる考え方が取り入れられました。では、一体「マネジメント・アプローチ」とは、どのような考え方なのでしょうか?

会計基準第46項によると、以下のような特徴が示されています。

(1)企業の組織構造(=経営上の意思決定を行い、企業の業績評価を行うために使用する内部単位)に対応する企業の構成単位に関する情報を提供する。

(2)業績評価のために使用する報告において、特定の金額を配分している場合にのみ、当該金額を構成単位に配分する。(逆に言えば、開示用のセグメント情報を作成するためだけに配分の手続を行うことはしない。)

(3)セグメント情報を作成するために採用する会計方針は、経営上の資源配分や業績評価のための報告の中で使用するものと同一にする。(セグメント情報はGAAPに従って作成された財務数値に基づいて作成するわけではない。)

この3つの特徴を読んで、内容がご理解いただけたでしょうか? あえて、誤解を恐れずにまとめてしまえば、内部報告用(一般に管理会計や経営会計と呼ばれる)の会計数値をそのまま開示することを要求されていることが分かります。逆の言い方をすれば、GAAPに基づく会計数値を確定させ、これを一定のルールに基づいて各セグメントに配分するというようなこれまでの手順は行われないということになります。

ここで、「マネジメント・アプローチ」が企業経営に大きな影響を与えると言われている意味がお分かりいただけましたでしょうか? 新しい会計基準では、経営者に報告されている管理会計数値がそのまま外部の財務諸表利用者に対して開示するということが要求されているわけです。これまで、管理会計数値を外部の利害関係者に開示するケースというのは極めて限定的であったと思うのですが、新しい会計基準が導入されると、決算短信や有価証券報告書の読者がこれらの情報を簡単に入手することが可能になるわけです。(※)

当然、このような考え方を導入するにあたっては、その長所と短所が比較検討されており、その内容が会計基準にも詳細に記載されています。次回は、この長所と短所の内容について理解し、新しいセグメント情報が企業活動に与える影響について、もう少し深く考察してみたいと思います。

※実際には、開示用に複数のセグメントを集約することが行われますが、仮に集約されたとしても、開示される数値の基礎となっているのは内部報告数値であることに変わりはありません。このことについても、後ほど触れたいと思います。

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セグメント情報を考える(その1)

資産除去債務についてのブログを書いてきた後、少し新聞記事関係のブログを書いてきたため、新会計基準の解説シリーズ(といっても、今回が2つ目のテーマですが)が少しお休みになってしまいました。逆に言えば、それだけ会計関係の新聞記事が多くなってきた訳で、非常に会計というものへの社会の関心が高まっていることを感じます。

さて、今回からはセグメント情報の会計基準について考えていくことにしたいと思います。

そもそも、セグメント情報とは、事業、商品(群)、顧客(層)、チャネル、地域などの切り口(セグメント)ごとに集計した財務情報のことであり、現行制度においても、事業の種類別セグメント情報、地域別セグメント情報、海外売上高に関する情報の開示が求められています。

企業グループが複数の事業領域を持っていたり、海外への事業展開を行っているような場合に連結財務諸表を作成すると、単一の財務情報に集約されてしまうため、逆に企業の経営実態が不明確になるという問題点があります。そこで、連結ベースの財務数値をいくつかの切り口に分割し、収益性や投資実績等の重要な情報を開示することで、企業の経営実態を明確にしようとするものであると考えられます。

従来、日本のセグメント情報に関する会計基準としては、日本公認会計士協会が「セグメント情報の開示に関する会計手法」(会計制度委員会報告第1号)を公表しており、これが実務上の指針として用いられていました。しかし、平成20年3月にASBJが企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」(以下、会計基準)及び企業会計基準適用指針第20号「セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針」(以下、適用指針)を公表しました。

なぜASBJがこれらの会計基準を公表したのかといえば、セグメント情報の開示に関する会計基準がIASBとのコンバージェンス項目だったからということになってしまうのですが、そもそも注記事項の会計基準で何をそんなに大騒ぎしているのか?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、このコンバージェンスは日本企業に非常に大きな影響を与える可能性があると言われています。

それは、国際会計基準が「マネジメント・アプローチ」を採用しているからであり、今回公表された日本の新しい基準もこの「マネジメント・アプローチ」を採用することを決定しています。では、一体「マネジメント・アプローチ」とはどのような考え方なのでしょうか?

(次回に続く)

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資産除去債務を考える(その8)

資産除去債務を取り上げた記事も今回で最終回となりましたが、今回は会計監査人の視点からこの資産除去債務について考えてみたいと思います。

公認会計士である河野明史氏は、会計監査上中心となる論点を①資産除去債務の範囲、②合理的な見積りの可否、③資産除去債務の測定に整理されています。

まず、資産除去債務の範囲ですが、これまでの記事でも説明してきたように、「有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるもの」とされています。会計基準第28項(結論の背景)の「企業が負う将来の負担を財務諸表に反映させることが投資情報として有用であるとすれば、それは法律上の義務だけに限定されるべきではなく」という記述にも見られるように、それが義務であるか否かを問わず、企業が将来において責務を果たすであろうと合理的に認められる範囲まで資産除去債務の範囲を広げる(IFRS)ではこれを推定的債務と呼んでいるようです)のが理論的であるような気もしますが、日本の会計基準においては、法律上の義務またはそれと同等の強制力が働くもの(例えば、過去の判例や行政当局の通達等のうち、法律上の義務とほぼ同等の不可避的な支出が義務付けられるもの)に限定して、会計基準の対象としていると理解すべきかと思います。

2点目に合理的な見積りの可否についてですが、これも過去の記事でも触れたように、「不確実性を伴うこと」≠「合理的な見積りが不可能であること」という点に留意が必要です。河野氏は、「一般に、資産除去債務の履行の時期と除去の方法が、法令等により定められている場合、企業は、資産除去債務を見積る上で必要な情報を有していると考えるべきである。」との見解を示されており、「実際に債務の履行が行われるかどうかという点だけが不確実なわけであるが、このような不確実性が除去債務の認識を阻むことにはならない。」としています。この辺りについては、債務の履行の不確実性こそ会計事象として取り上げるべき問題なのか?という意見も聞こえてきそうですが、今回の会計処理の対象は推定的債務ではなく、法律または契約上の義務(またはそれに準ずるもの)であり、将来債務を履行する可能性が極めて高いものを取り上げていることを考えると、「将来の債務の履行が合理的に予測できるものは、これを負債として認識すべき」という国際会計基準の負債の観点からも積極的にこのような負債を認識すべきなのだという形での理解が必要ではないかと思います。よって、企業が資産除去債務を合理的に見積ることができないと判断(主張)する場合は、監査上、十分に説得力のある客観的証拠に基づいて立証される必要があると考えられます。

3点目に資産除去債務の測定についてですが、これは、1)将来キャッシュ・フローの見積と2)割引率の論点に分けて考える必要があります。まず、1)将来キャッシュ・フローの見積についてですが、会計基準第6項によれば、生起する可能性の最も高い単一の金額または生起し得る複数の金額をそれぞれの発生確率で加重平均した金額のいずれかを用いることとなっています。よって、先ほどの合理的な見積りの可否と重なりますが、単一の予測金額が算定されない場合でも、合理的な見積りができない場合には該当しないことに留意が必要です。また、事象によっては、もっとも可能性の高い金額がゼロのために資産除去債務もゼロというケースも考えられますが、河野氏は債務の見積金額が幅広く分布している(すなわち、支出が発生するケースも十分想定できる)ようなケースでは加重平均値を用いることが適当であると指摘されています。

次に、2)割引率についてですが、こちらは、将来キャッシュ・フローが見積りから乖離するリスクは将来キャッシュ・フローの見積りに反映することとなっている(適用指針第3項)ため、割引率は将来キャッシュ・フローが発生すると予想される時点までの期間に対応する
貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の割引率(一般に国債の利回り等)を用いることになっています。この点は、固定資産の減損会計では割引率に将来キャッシュ・フローが見積りから乖離するリスクを反映させることも認められており、取扱が異なっている点に留意が必要です。

私も会計監査にそれなりに従事してきましたので、最後は私の見解を少し述べさせていただきますと、特に合理的な見積りの可否や資産除去債務の測定という観点については、あまりに見積りの要素が大きいため、絶対的に正しいという結論を導くことは困難であると推測されます。故に、企業の経理担当者の方々も監査を行う公認会計士も判断に悩む訳ですが、経験的に言えるのは、会計基準に従って最大限の努力を払って導くということが重要ではないでしょうか。コストも無尽蔵にかけられる訳ではないことは十分承知していますが、かといって、あまりに要領を重視し過ぎた結論にはなかなかOKは出しずらいような気もします。

※上記の内容は、季刊 会計基準 第21号(財務会計基準機構発行)の掲載記事を参考にしています。

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資産除去債務を考える(その7)

これまで、資産除去債務の会計基準について会計処理を行わなければならない企業の立場からその影響を考えてきましたが、今回と次回は、財務諸表の利用者や会計監査の立場から資産除去債務の会計基準がどのように捉えられているのかを少し考えてみたいと思います。

まず、財務諸表の利用者の視点から、野村證券㈱ 金融経済研究所投資調査部次長の野村嘉浩氏は以下のような指摘をしています。

まず、この会計基準を適用した影響がどの程度あるのかということについて関心が高まると予想されます。具体的には、①どのような有形固定資産に対してどの程度の資産除去債務が見積もられるのか、②適用初年度に計上される特別損失の金額はどの程度か、③会計基準適用後に増加する減価償却費や利息費用はどの程度か、という点です。

次に、設備投資計画への影響が指摘されています。設備投資計画に資産除去債務を織り込むことが可能か否かといった問題は、織り込まれた場合の影響額も十分な情報開示が必要となるでしょう。野村氏は、資産除去債務を設備投資計画に織り込んだとしても投資時点でのキャッシュ・フローに与える影響が限定的である(というかほとんどないと思われる。)ので、設備投資計画の開示の際にこれらを区分することの重要性を指摘されています。

また、今回のブログでは詳述していませんが、時間の経過にともなって将来の支出の見積りが変更された場合は、資産除去債務の計上額も修正されることになります。こうした変更はそれなりの理由があるはずなので、実際の変更理由を検討することで、企業がどのような状況に遭遇した場合に見積りの変更が起こるのかを予想することが可能になると指摘されています。確かに、利用者の側にすれば、財務数値が変動することで企業分析に大きな影響を与える訳ですから、情報の不確実性を評価しておくということも重要なことだと思われます。

最後の指摘は、割引率です。割引率の問題については、この資産除去債務の会計基準に限らず、退職給付会計や固定資産の減損会計においてもしばしば指摘されるところですが、割引率のバラツキが財務諸表の企業間比較を困難にしているという指摘がなされています。割引率の問題については、作成者の側からも一律に指針を決められないものかといった指摘が聞こえてくるところですが、会計基準の改正等もあって選択の幅が狭まってきていることもあり、今後の実務の動向を見守る必要があると言えるのではないでしょうか。

※上記の内容は、季刊 会計基準 第21号(財務会計基準機構発行)の掲載記事を参考にしています。

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資産除去債務を考える(その6)

今回は資産除去債務の会計基準が導入されるにあたっての実務上の留意点について考えていきたいと思います。

ASBJの副委員長であり、資産除去債務専門委員会の専門委員長でもある逆瀬重郎氏は、次のような点を実務上の課題として挙げられています。

まず、1点目は適用初年度の準備作業の問題です。ここで注意しなければならないのは、適用初年度の期首時点において保有している固定資産について資産除去債務が発生している場合もこれを認識しなければならないとされている点です。(会計基準第18項)

固定資産の会計基準が変更される場合には、その導入年度以降に新規に取得した資産から適用される場合が多いと思われますが、資産除去債務の会計基準に関しては、既に取得済の資産についても会計基準の適用が必要となっている点に留意が必要です。よって、導入初年度の期首時点において、既存の有形固定資産の債務の有無の判定し、債務が発生している場合はその債務金額を算定するとともに有形固定資産の簿価に算入すべき除去費用の期首時点の簿価(未償却金額)を算定しておく必要があります。なお、この時に発生する貸借差額(すなわち、過年度に費用計上されていたであろう額)は導入初年度の特別損失として計上することになっているため、この損益インパクトにも注意が必要です。

資産除去債務の有無の判定については、以前に触れたところでありますが、日本の場合は借地上の建物や賃貸借物件の中に設置している固定資産の除去については特に慎重に対応する必要がありそうです。また、その債務金額の算定にあたっては、可能な限り見積りを行うことが求められていますので、見積方法(内部計算の手法や外部の見積先の選定など)についても確立しておく必要があるのではないかと考えられます。

2点目に原価計算の問題が指摘されています。このブログでも述べたように、資産除去債務の会計基準が適用されると、貸借対照表への影響だけでなく、これまでは資産の除却時に特別損失として会計処理されることが多かったであろう固定資産の除去費用が減価償却費や時間の経過による資産除去債務の調整額として、営業費用(製造原価や販管費)として計上されることとなります。

よって、メーカー等で多様な有形固定資産を保有している企業にとっては、これらの費用を合理的に原価計算に取り込むための原価計算システムの改良を考える必要があるかもしれません。また、そもそも固定資産の除去費用が営業費用として取り扱われるということは、企業のコスト構造にも影響を与えることになります。例えば、製品の製造コストそのものを押し上げることにもなりますから販売価格への転嫁をどのように考えるのか? とか、営業利益や経常利益の圧迫要因(減益要因)を吸収するためにどのような収益力の強化を目指すのか? といったことも検討しなければならなくなるのではないでしょうか。

3点目に固定資産台帳の問題です。今のところ、資産除去債務の会計基準によって増加する減価償却費の取扱いについては不明ですが、資産除去債務の計算は見積りの要素も大きいため、会計基準の導入によって押し上げられた減価償却費や時の経過による資産除去債務の調整額については、法人税法上損益算入が認められない可能性が高いと思われます。この場合、減損会計の時と同じように、税務上の減価償却費と会計上の減価償却費は相違することとなり、この2系統の計算が可能に可能となる固定資産台帳システムの整備が必要にあると考えられます。

減損会計を適用した固定資産に資産除去債務が発生…あまり考えたくない状況ではありますが。。。

会計基準の導入時期は、平成22年4月1日以降開始する事業年度、すなわち、平成23年3月期となっています。ですが、導入初年度の期首時点での準備を考えると、3月決算会社の場合は、平成22年3月時点の影響を平成22年6月の第1四半期決算に織り込まなければなりません。また、システムの問題を考慮すると、もっと早い段階で資産除去債務の会計基準が自社に与える影響を把握し、システム会社との打ち合わせを始めた方が得策ではないかと考えられのではないでしょうか?

※上記の内容は、季刊 会計基準 第21号(財務会計基準機構発行)の掲載記事を参考にしています。

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資産除去債務を考える(その5)

少し間が開いてしまいましたが、資産除去債務を取り上げた4回目のブログでは、当初認識した資産除去債務は、固定資産の取得原価に含められ、その後固定資産の減価償却を通じて費用化されていくというお話をしました。

後は、固定資産が除去されるのを待つだけ…ということになるのでしょうか? もう1つ考えておかなければならないことがあります。それは、資産除去債務の時間的価値というお話です。前回取り上げた設例をもう一度見てみましょう。

(設例)A社は20X1年4月1日に設備を取得し、使用を開始した。取得価額(除去費用を除く)は10,000で、当該設備を除去するときの支出が1,000と見積もられた。耐用年数は5年、残存価額ゼロ、定額法で減価償却することとし、割引率は3.0%とする。なお、A社は3月決算会社である。

この設例では、当初863の資産除去債務が認識され、固定資産の取得原価に算入されました。この863は、5年後に1,000のキャッシュ・フロー(この場合は支出)が見込まれる場合の割引現在価値を算定した結果であると言うことができました。では、1年経過した後の決算処理では、何もしなくていいのでしょうか?

1年経過したということは、この固定資産の除去に関する支出は4年後に見込まれることになります。当然、5年後の1,000の支出と4年後1,000の支出では、割引現在価値が異なります。会計基準第9項では、「時の経過による資産除去債務の調整額は、その発生時の費用として処理する。」となっていますが、時の経過による資産除去債務の調整額とは、固定資産の除去に関する支出の割引現在価値の変動額と言い換えることができるでしょう。

この設例においては、4年後の1,000の支出の割引現在価値は889と求められますので、当初認識していた資産除去債務863との差額26だけ資産除去債務を増加させるとともに、費用を認識してやる必要があります。

(費用)26 / (資産除去債務)26

会計基準では、この費用は退職給付会計でいうところの利息費用のようなものと説明されており、期首の資産除去債務に割引率を乗じても求めることができます。どちらで考えても結果は同じです。また、この費用については科目の指定がありませんが、会計基準第14項によれば、関連する固定資産の減価償却費と同じ計上区分で計上することが求められています。

結局、これまで固定資産の除去時に支出額を特別損失として計上してきた会計処理が、今後はその発生額を見積もり、固定資産の使用に応じて費用(それも営業費用)として計上することが求められるようになるわけですね。

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資産除去債務を考える(その4)

資産除去債務を負債として計上した場合に、借方の会計処理はどのようになるのでしょうか。今回はこの点について考えてみたいと思います。

会計基準第7項には、「資産除去債務に対応する除去費用は、資産除去債務を負債として計上した時に、当該負債の計上額と同額を、関連する有形固定資産の帳簿価額に加える」と記載されています。有形固定資産の取得価額は、これまで固定資産の購入価額+付随費用によって決定(測定)されてきましたが、今後は有形固定資産の除去費用を見積もった上で、取得価額に加えることが求められるわけです。

では、有形固定資産の取得価額に含められた除去費用はどのように取り扱われるのでしょうか。当然のことながら、「資産計上された資産除去債務に対応する除去費用は、減価償却を通じて、当該有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分される」(会計基準第7項)ことになります。

少し簡単な設例を使って、会計処理をイメージしてみましょう。

(設例)A社は20X1年4月1日に設備を取得し、使用を開始した。取得価額(除去費用を除く)は10,000で、当該設備を除去するときの支出が1,000と見積もられた。耐用年数は5年、残存価額ゼロ、定額法で減価償却することとし、割引率は3.0%とする。なお、A社は3月決算会社である。

まず、資産を取得した時の会計処理はどうなるでしょうか? 従来であれば、固定資産の取得価額は10,000ですので、

(機械装置)10,000 / (現金預金)10,000

というような仕訳になっていたかと思います。しかし、資産除去債務の会計基準では、当該設備を除去する時の支出を割引現在価値に置き直して負債計上するとともに、固定資産の取得価額も同額増やさなければなりません。よって、この設例では、5年後の支出1,000を3.0%の割引率で割引現在価値に置き直した金額863を計上する必要がありますので、

(機械装置)863 / (資産除去債務)863

という仕訳を追加してやる必要があります。結果として、有形固定資産の取得価額(取得時点での帳簿価額)は10,863になります。

では、減価償却費はどうなるでしょうか? 当然10,863を取得価額として償却していくことになるわけですから、5年の定額法で残存価額ゼロ)とすると、1年当たりの償却費は10,863÷5=2,173になります。

(減価償却費)2,173 / (減価償却累計額)2,173

ここで1つ考えておかなければいけないことがあります。資産除去債務の会計基準が導入されると、固定資産の取得価額が増加する結果、減価償却費も増加することがわかります。(上の設例の場合、現行の会計処理では減価償却費は2,000となるはずです。) 減価償却費が増加するということは、予算の策定や生産コストなどにも少なからず影響を与えるはずです。

このように考えてみると、資産除去債務の会計基準は会計の問題だけではなく、企業活動に比較的大きな影響を与えることになるのではないでしょうか。

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資産除去債務を考える(その3)

前回の記事では、資産除去債務の会計処理について、以下のような点を指摘しました。

・資産除去債務は、有形固定資産を除去した時点ではなく、有形固定資産を除去する義務を負った時点で負債として計上する必要があること。

・負債計上額は、有形固定資産の除去に要する将来キャッシュ・フローを見積り、貨幣の時間的価値のみを考慮した無リスクの税引前利率を割引率として用いた割引現在価値で算定すること

今回は、このうち、有形固定資産の除去に要する将来キャッシュ・フローの見積りについて、もう少し考えてみたいと思います。

ここまでの記事を読まれると、「固定資産の除去に要する将来キャッシュ・フローなんて、そんな将来の見積りなんて無理だ。客観的な見積りができるようになるまで、会計処理はしなくてもいいんじゃないか。」と考えられた方もいらっしゃると思います。確かに、おっしゃる通りで、会計基準には以下のような記述があります。

「資産除去債務の金額を合理的に見積ることができない場合には、これを計上せず、債務額を合理的に見積ることができるようになった時点で負債として計上する。」(会計基準第5項)

しかし、資産除去債務の金額を合理的に見積ることができない場合とは、「入手可能なすべての証拠を勘案し、最善の見積りを行ってもなお、合理的に金額を算定できない場合」(適用指針第2項)となっており、また、資産除去債務が発生しているにもかかわらず、その債務を合理的に見積ることができないために資産除去債務を計上していない場合には、その債務の概要及び合理的に見積ることができない理由を注記することが求められています。(会計基準第16項)

また、適用指針第3項では、将来キャッシュ・フローを見積る方法としていくつかの方法を提示しています。

・平均的な処理作業に対する価格の見積り

・取引価額から控除された除去費用の算定の基礎となった数値

・過去において類似の資産について発生した除去費用の実績

・有形固定資産への投資の意思決定を行う際に見積られた除去費用

・有形固定資産の除去サービスを行う業者などの第三者からの見積り

このことから、単純に将来の事象だからという理由で会計処理ができないと判断するのは非常に難しいのではないかと思われます。あまり客観性に乏しい(見積りの要素が大きい)事象は会計処理しない」という固定観念のようなものが日本の会計(経理)の世界にはあるように思うのですが(私もそういう観念を持つ1人ですが)、最近は、見積りの要素が大きいからといって会計情報が提供されないリスクの方が問題であるという考え方に変わってきているようです。少し発想の転換が必要かもしれません。

何はともあれ、資産除去債務が多くの企業に存在し、可能な限りの見積りを行った上で、負債として計上しなければならなくなるというところまではご理解いただけたでしょうか? では、借方の会計処理はどうなるのか? 次回はこの点に触れてみたいと思います。

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資産除去債務を考える(その2)

前回のブログで、資産除去債務とは「有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるもの」であり、少なからず各企業がこのような義務を負っている可能性があるというお話をしました。

では、このような義務(資産除去債務)について、どのように会計処理することが求められるのでしょうか? 結論からいうと、「資産除去債務はこれが発生した時点で負債として計上しなければならない」ということになります。

この「発生」という言葉の意味ですが、資産除去債務=有形固定資産を除去する義務ですから、この義務が発生した時点で資産除去債務を負債計上することが求められるということになります。通常は、資産除去債務の発生時点=固定資産を取得した時点と考えられるでしょうし、現在保有している固定資産について新たに資産除去債務が発生したのであれば、発生した時点で負債計上が必要になるでしょう。

ここで1つ大きな問題が生じることがわかります。資産除去債務は資産を除去した時点ではなく義務が発生した時点で負債計上することとなるため、将来起こる事象を見積もって会計処理することが求められます。会計基準を読んでみると、「資産除去債務は、有形固定資産の除去に要する将来キャッシュ・フローを見積り、貨幣の時間的価値のみを考慮した無リスクの税引前利率を割引率として用いた割引現在価値で算定する」こととなっており、将来キャッシュ・フローと割引率という2つの判断要素が含まれていることが分かります。

次回は、この2つの判断要素の中でも、特に将来キャッシュ・フローの部分についてもう少し詳しく考えてみることにしましょう。

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資産除去債務を考える(その1)

前回のブログで予告しましたように、今日からは新しく設定された日本の会計基準を理解し、実務上どのような準備が必要なのかを考えていきたいと思います。1つ目のテーマは「資産除去債務」です。

資産除去債務に関する会計基準としては、企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」(以下、「会計基準」という。)と企業会計基準適用指針第22号「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」(以下、「適用指針」という。)が公表されています。

会計基準によると、資産除去債務とは、有形固定資産の取得・建設・開発・通常の使用によって生じる当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものとなっています。法律上の義務に準ずるものとは、過去の判例や行政当局からの通達から判断して債務の履行を免れることがほぼ不可能な義務を指すものとされています。

つまり、有形固定資産を除去することが強制されるものを資産除去債務というように考えればよいのではないかと考えます。「強制される」というのがポイントで、固定資産の除去が企業の自発的な計画のみによって行われることは、資産除去債務の対象ではないとされています。

では、具体的に資産除去債務とはどのような考えられるのでしょうか? 資産除去債務の典型的な事例として原子力発電施設の解体に伴う債務が挙げられるようですが、こんなものを持っている会社はあまり一般的ではありません。その他の事例として、注意しておく必要がありそうなものとしては、以下のようなものがあります。

・定期借地権契約で賃借した土地の上に建設した建物を撤去する義務

・賃借建物の原状回復義務

また、有形固定資産の撤去そのものではなくても、有形固定資産の中に含まれている特定の有害物質を除去することが法律等で義務付けられるケースがあります。例えば、アスベストやPCBの撤去義務などがそうですが、こうした義務も資産除去債務に含まれるものとされています。

このように、資産除去債務の定義(適用範囲)を検討してみると、多くの企業が資産除去債務を負っている可能性があることがわかります。また、多数の事業拠点を賃借土地や建物に保有している場合には、多数の資産除去債務を負っている可能性があります。

次回は、この資産除去債務をどのように会計処理することが求められるのかを検討していきたいと思います。

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2008年度変わる会計(その5)

2008年4月1日以降開始する事業年度から、「関連当事者の開示に関する会計基準」(企業会計基準第11号)が適用されます。

関連当事者との取引に関する開示は、これまでも旧証券取引法や会社法上の規則で開示が要求され、日本公認会計協会から公表された「関連当事者との取引に係る情報の開示に関する監査上の取扱い」が実務上の指針となっていましたが、国際会計基準や米国会計基準では、会計基準の1つとして位置付けられていることもあり、日本でも会計基準の1つとして位置づけられるようになりました。

その内容については大枠についてはこれまでのルールと同じであると言えますが、いくつか改正されている点がありますので、私が影響が大きそうだなと思う点を中心に述べていきたいと思います。

①関連当事者の範囲

これまで関連当事者とされていたものに加えて、財務諸表作成会社の共同支配投資企業(財務諸表作成会社が共同支配企業である場合の投資者)、財務諸表作成会社の共同支配企業、親会社の役員(近親者、傍系企業を含む)、重要な子会社の役員(近親者、傍系企業を含む)、企業年金(掛金の拠出以外の取引がある場合)、会計参与(近親者、傍系企業を含む)が追加されています。

②開示すべき取引の範囲

これが一番の改正点だと思われるのですが、連結財務諸表における関連当事者との取引の開示については、従来の財務諸表作成会社と関連当事者との取引だけでなく、連結子会社と関連当事者との取引についても開示の対象に含められることとなりました。この部分は、個人的にも開示対象となっていないことに疑問がありましたし、日本経済新聞の記事でも関連当事者取引の開示を逃れるために子会社を迂回して関連当事者と取引していたケースもあったのではないかとの指摘がなされています。なお、個別財務諸表における注記情報として関連当事者との取引を開示する場合は、子会社との取引は含められませんので、留意が必要です。

③関連当事者に対する貸倒懸念債権及び破産更生債権等に係る情報

関連当事者に対する債権に対して個別に貸倒引当金を計上した場合(例えば、(非連結)子会社に対して貸倒引当金を計上した場合など)に、これを関連当事者との取引に関する開示情報に含めるのかどうかは、実務上悩ましい問題だった(と私は思っているのですが…)のですが、新しい会計基準ではこれも関連当事者取引に関する開示情報の対象に含めることが明記され、貸倒引当金や債務保証損失引当金の期末残高及び当期の繰入額、さらに当期の貸倒損失額を開示することが求められています。

④開示における重要性の判断基準について

関連当事者のうち役員及び個人主要株主等のグループに含まれる者との取引については、従来100万円を超える取引が開示対象となっていましたが、新しい会計基準では1,000万円を超える取引が開示することが求められるとなりました。この点は、要件が緩和されています。

四半期開示では関連当事者との取引の開示は求められていないため、新しい会計基準を適用した開示が最初に行われるのは2009年3月の期末決算からということになりますが、関連当事者との取引の開示は、ルールに沿って開示を行えばいいというだけではなく、開示を行うことで色々な憶測を招くことがありますので、取引関係を整理しておくことが重要ではないかと考えられます。

実はこのような影響を考慮して、会計基準は2006年10月に公表されていました。最近の会計基準はその影響の大きさを考慮して、適用年度までに十分な期間を空けて公表されることが多くなっています。「まだまだ先の話」と考えるのではなく、基準が公表された時点から財務諸表への影響を十分に評価し、対応策を検討していきたいものです。(私も、この会計基準をじっくり読んだのは、今になってからなので、あまり偉そうなことは言えないのですが…)

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2008年度変わる会計(その4)

2008年4月1日以降開始する事業年度から棚卸資産の評価基準に関するルールが変更となります。これまでは、棚卸資産の評価基準として、原価法(棚卸資産の取得原価のままで評価する方法)と低価法(取得価額と時価を比較して低い方の金額で評価する方法)の選択適用が認められていましたが、2008年度からは低価法に一本化されることになります。

これまでは、原価法を採用していた企業も強制評価減のルールにより、時価が50%以上下落していた棚卸資産については、その評価を時価まで切り下げることが行われていましたが、これからは全ての棚卸資産について時価まで切り下げることが求められることになります。

日本経済新聞朝刊の記事によれば、単価の高い商品を扱う企業や価格変動が商品を扱う企業、すなわち、不動産・アパレル・電機関連の企業に影響が大きいのではないかと考えられているようです。これまでも、こうした業種をはじめ各企業では在庫の回転率管理(滞留管理)に力を入れていたと考えられますが、一層シビアな管理が求められることになりそうです。

このルールを実務上運用していくにあたって、以下の点を慎重に検討する必要があろうかと思います。

①基準上は、すべての在庫について原価と時価(正味売却価額)の比較を行う必要があるように考えられますが、企業側がこの比較を実施したことを示す資料をどのように残しておくか検討しておく必要があると思います。すべての在庫について、原価と時価を比較した資料を作成している企業は多くないと考えられ、もし作成が要求されるのであれば、企業側の負担がかなり増えるのではないかと思われます。

②滞留商品など正味売却価額を評価することが難しいものについては、ルールを定めて帳簿価額を切り下げる方法が認められていますが、基準上は具体的なルールに関する記述がないため、企業側で実態に即したルールを定める必要があるかと思います。このルールを決めたら、監査上も受け入れられるルールになっているかどうかを早めに協議することが必要と思われます。

既に新しい体制での四半期決算もスタートしている企業が多いと思いますが、新しい基準への対応を万全にしていただいて、無事に乗り切っていただきたいと思います。

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2008年度変わる会計(その3)

2008年4月1日以降開始する事業年度より、新しいリース会計基準が適用されます。正確には2009年3月31日の期末決算から適用となり、四半期決算については翌期の第1四半期より適用のため、対応準備をされている方も多いのではないでしょうか。

ご存知の方も多いと思いますが、これまで「例外規定」において賃貸借処理が認められていた所有権移転外ファイナンス・リース取引についても売買処理が要求されることとなります。これまで固定資産の調達に際してリースか購入かを選択するにあたっては、支払リース料が全額損金算入できるという税務上のメリットも大きかったと新聞記事では書かれています(従来、購入の場合は、取得価額の5%は除却するまで損金算入が認められなかった。)が、これも平成19年度法人税改正で備忘価額1円を残して減価償却が可能となったため、現在ではリースと購入での税務上の取り扱いの差異はほとんどなく、今後は資金調達のコストをシビアに比較した判断が求められそうです。(以上、日本経済新聞朝刊記事より)

また、リース資産の影響額が大きい企業では、リース資産が貸借対照表に計上されることによって、固定比率や総資産利益率(ROA)といった経営指標にも影響を与えることとなるため、リース資産をも含めた経営判断が求められると考えられます。

リース取引はリース物件の所有権がリース会社にあり、あくまで法的には賃貸借取引であるという法形式の判断が日本では有力な考え方として広がっていたわけですが、国際会計基準の考え方では実質優先の考え方が強調されており、このリース会計はその代表的なものと言えそうです。(ファイナンス・リース取引の場合は、リース資産が有する経済的資源を享受するのは、借手であるという実態を反映させるため) 他のテーマにおいても契約関係や法律関係といった形式よりも実質優先の考え方が採用されることも予想され、私も含め日本の会計関係者も少し心の準備が必要なのかもしれません。

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2008年度変わる会計(その2)

2008年4月1日以降開始する事業年度より、実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」が適用となります。

従来、在外連結子会社の決算は、原則として日本基準による決算が求められていたものの、実際にはその子会社が所在する国の会計基準に準拠していれば、そのまま受け入れてもよいとする例外規定(いわゆる「現地主義」)が適用されているケースが圧倒的に多かったのではないかと思われます。

実務対応報告第18号の適用により、在外連結子会社の決算は日本基準・国際財務報告基準・米国会計基準のいずれかに準拠して作成することが求められる一方、のれんの償却や退職給付会計における数理計算上の差異の処理など6項目については、連結決算手続において日本基準への修正が求められています。

新聞記事によれば、在外連結子会社が計上している「のれん」の会計処理について、従来は現地主義によって規則償却が行われていなかったものが、今回の実務対応報告の適用により規則償却が求められるようになったために、業績に与える影響が大きい企業も見受けられるようです。(もともと、「のれん」の償却の要否については、会計基準のコンバージェンスの大きなテーマの1つとされており、2011年6月を目処に日本の規則償却が廃止されるのではないかという観測もあります。)

一方、この実務対応報告の適用にあたっては、米国以外の連結在外子会社については従来通り現地主義の決算を行ってもらい、その後、国際財務報告基準を適用した場合の修正仕訳があれば、連結決算手続において加味する手法が多く採用されているようです。

在外連結子会社の決算については、現地の会計事務所(監査法人)への依存度が高いケースも少なくないと思われますが、内部統制の観点からも、修正事項の有無は企業側が積極的に確かめておくべき項目ではないかと考えられます。監査法人によっては、この第1四半期レビューにおいて、実務対応報告第18号の対応を検討している資料の提示を求めているところもあるようで、実務上の混乱がないかどうか懸念されるところです。

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2008年度変わる会計(その1)

これまでは、会計のフレームワークを取り上げたブログをたくさん書いてきましたが、この辺で一段落して、少し会計のトピックスに触れていこうと思います。まず、2008年度の会計基準の改正について触れてみたいと思います。

①四半期決算制度の導入

四半期決算制度については、3月にこのブログでも3回に分けて取り上げましたので、そちらも見ていただければと思います。

この四半期決算制度の導入に関連して1つの論点があります。それは連結子会社の決算期に関する問題です。現状の連結決算のルールにおいては、連結決算日と連結子会社の決算日の差異が3ヶ月以内であれば、そのまま連結することが認められています。(ただし、決算日の差異期間に生じた重要な取引については修正しなければならない点にはご注意ください。)

この4月から施行される四半期決算制度では、期首からの累計損益に加えて、四半期毎の損益の開示が求められています。ここで、決算日に3ヶ月の差異がある連結子会社が含まれていると、その子会社の業績は、3ヶ月古い業績が連結業績に取り込まれることとなり、四半期開示情報の有用性という観点から見直しの余地があるのではないかという指摘があります。

一方で、四半期決算短信は30日以内での開示、四半期報告書は45以内での提出が求められていますが、特に海外子会社の場合は、連結決算日と決算日を一致させると、監査(レビュー)の時間の確保や子会社のマンパワーの問題によってかえって決算発表が遅くなってしまうのではないかという指摘もあります。

また、2010年から導入される新しいセグメント情報の会計基準では、マネジメントアプローチが採用され、セグメント情報で開示される財務情報は基本的に経営者に報告されている情報がそのまま開示されることになることから、この決算期の差異の問題は企業の管理会計(管理情報)のあり方にも影響を与えるのではないかという話も伝わってきます。

新聞の記事によれば、一部の企業では既に子会社の決算期変更が行われているようですが、今後この問題が企業経営にどのような影響を与えるのか注目されるところです。

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四半期報告制度が始まります(その3)

四半期報告制度の記事も今回で最終回にしたいと思います。最終回は四半期レビューが始まるという点です。

・四半期財務諸表は年度の監査人が行うレビューを受けなければならない。

レビューという制度そのものについては、諸外国では既に導入されている制度でしたが、日本では制度そのものは確立していませんでした。(東京証券取引所のマザーズ上場企業を対象にレビュー制度と似たような制度が導入されてはいましたが)

今回、四半期制度開示制度の導入にあたり、金融商品取引法の規定に基づき(法律上は監査証明として扱われるようですが)、四半期レビュー基準が企業会計審議会から公表され、四半期レビューに関する実務指針が日本公認会計士協会から公表されています。

監査とレビューはどこがどう違うのかという点について関心が高いように思われますが、誤解を恐れずに簡単に言い切ってしまえば、レビューは監査に比べて実施する手続が限定される(簡便になる)が、その分監査よりも財務情報の信頼性に対する保証の水準が低いものであるということになろうかと思います。ただ、四半期レビューの解説文等を読んでいると、実務的にはいくつか留意すべき点もあるように感じられますので、その点に触れてみたいと思います。

①レビューといえども、法律上の扱いは監査証明である。

これは、四半期レビューの根拠条文となる金融商品取引法第193条の2第1項の規定によるものですが、先にも述べた通り、本来監査とレビューは似て非なるものであるということができます。それでもなお、このような条文が残っているのは、「レビューだからといって、虚偽記載のある財務情報に監査人が意見表明をする責任が軽減されるわけではない。」という金融庁の意思の表れであると読みとることもできるのではないでしょうか?

②レビューで行われる質問や分析的手続はきめ細かく実施する必要がある。

①にも記載した通り、レビューといえども法律上の位置づけは監査と全く変わらないことから、実務指針ではレビューの代表的な手続とされる質問や分析的手続を「きめ細かく」実施する必要があると述べています。監査の場合は、実証的手続(監査人が自ら財務数値の妥当性を立証するために実施する手続)が実施されますが、レビューにおいては、実証的手続は原則として実施されません。その分、質問や分析的手続をより慎重に実施し、異常性や矛盾点を発見する必要があるという意味で「きめ細かく」という文言が用いられているようです。この辺りは、実際のレビュー手続にどのように反映されてくるのかはわかりませんが、レビューは監査よりも簡単ですぐ終わるというものでもなさそうです。

③内部統制の整備・評価と絡んで、企業の財務分析能力が問われる。

質問や分析的手続が詳細に行われたとしても、質問への回答や分析的手続が判明した異常点や矛盾点への回答は企業の経理部門の方に行っていただく必要があります。実務上は、納得のいく回答が得られないような場合には、監査人自らが納得のいく結論が得られるまで追加的な手続を実施することになります。すなわち、レビューが監査に比べて負担感が軽減されるものとなるためには、企業の分析能力が充実していなければならないということになります。特に、決算財務報告プロセスの整備の中でも、決算数値を分析する業務が盛り込まれることが多いように感じますが、運用面も問われていくことになりそうです。

以上、3回に分けて四半期開示制度についての私見を述べてきました。間もなく、3月も終わり、いよいよ多くの企業の方々や監査法人の方々は決算・監査業務に突入されるかと思います。くれげれも体調管理には気をつけられ、無事に決算を終えられることをお祈りしております。

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四半期報告制度が始まります(その2)

前回も述べたように、既に取引所の開示ルールによって実施されている四半期開示制度ですが、法律に基づく制度として導入されることにより、いくつかの変更点(改正点)が出てきています。今日は、会計基準について述べてみたいと思います。

・四半期財務諸表に関する会計基準を適用する必要がある。

少し前の話なので、ご存知の方も多いかと思いますが、2007年(平成19年)3月14日に企業会計基準委員会より、企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下、両者を合わせて四半期会計基準と呼びます)が公表されています。

この四半期会計基準は、適用が平成20年4月1日以降開始する年度、すなわち、四半期開示制度の導入に合わせて設定されたものとなっています。これまでは、四半期会計基準の拠り所が多少あいまいだった部分もありましたが、今後は四半期会計基準に一本化されることとなります。

四半期会計基準では、四半期特有の会計処理の除いて、原則として年度と同様の会計処理を行わなければならないとする一方で、簡便な会計処理が認められています。これは、前回述べたように、四半期報告がその迅速性を重要視していることに起因していると考えられます。

四半期特有の会計処理とは、原価差異の繰延処理、後入先出法における売上原価修正、税金費用の計算(いわゆる税効果会計の簡便法のこと)を指します。一方、適用可能な簡便な会計処理は適用指針にその多くが記載されています。一度、四半期会計基準をお読みになられて、スピードと正確性の両立が図られるように、自社の四半期会計基準を整備されてはいかがでしょうか。

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四半期報告制度が始まります(その1)

早いもので、今年も3月が終わろうとしています。いよいよ、3月決算突入ということで、会計・監査の世界はいわゆる多忙を極める時期になります。一方で、2008年4月1日以降開始する事業年度からは、内部統制監査(いわゆるJ-SOX)と四半期報告制度がスタートします。J-SOXについては触れられる機会も多いかと思いますので、今回は四半期報告制度について少し触れてみたいと思います。

今回の四半期報告制度については、主に上場会社を対象として四半期決算日から45日以内に四半期報告書を提出することが金融商品取引法において義務付けられています。一方で、上場会社については、既に取引所のルールによって、四半期開示が求められており、その意味においては、全くの新しい制度が導入されるわけではないということが言えるかと思います。しかし、今までにはなかった制度の導入もあることから、十分な準備が必要ではないかと考えます。ここでは、その制度の導入と対応策について簡単ではありますが、考えてみたいと思います。

・四半期報告書の提出期限が45日と明確にさだめられていること

これまでの制度では、①中間決算を実施し中間決算日から3ヶ月以内に半期報告書を提出することが義務付けられており、②取引所のルールにおける四半期開示については四半期決算日から45日以内での開示が推奨されているという状況でした。

しかし、今回の制度では、①四半期決算を実施し四半期決算日から45日以内に四半期報告書を提出することが義務付けられており、②取引所のルールにおける四半期開示については四半期決算日から30日以内での開示を企業に要請する方向(3月20日日本経済新聞より)とのことです。

つまり、全体的に決算スピードの早期化がより一層求められることになります。その一方で、ある程度の正確性も要求される訳ですから、企業の経理部門の皆様に求められる決算のレベルというのは相当高いものになってくるということになります。

少し前の日本経済新聞で、四半期対応は経理部門の方々の残業で対応しようと考えている企業様が比較的多いというような調査結果が出ているとの記事を読みました。しかし、四半期開示制度の導入はすでに諸外国において導入されていた制度であり、広い意味での会計の国際化ということができます。また、企業の決算体制は、これだけ決算開示情報に対する注目度が上がっている状況においては、企業が存在するために必要不可欠なインフラとして取り扱うべきでしょう。

そうであるならば、企業はコストを払って(投資をして)でも、この問題に取り組む必要があるのではないかと感じているのですが、これって会計士のエゴでしょうか?

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日本基準のコンバージェンスの状況

2005年に欧州証券規制当局委員会(CESR)がIFRSと日本基準との同等性評価を行った結果、日本基準とIFRSは全体として同等であるものの、26項目については重要な差異があると指摘されていました。

2007年の東京合意では、まずこの26項目について2008年中に何らかの結論を得ることが予定されています。すなわち、この26項目の多くについては、近い将来に会計基準等の変更が予定されている(既に公表されているものも含まれますが)ことになります。

先日参加した日本公認会計士協会のIFRSセミナーでも、この点が取り上げられていましたので、私なりに整理をしてみました

企業結合関係…2008年中に最終改訂基準の公表を予定。取り扱われるテーマは、持分プーリング方の可否、企業結合の対価算定日、負ののれん、少数株主持分の取扱、段階的取得、外貨建のれんの換算である。また、取得した仕掛中の研究プロジェクトの取扱については既に研究開発費に関する論点整理が公表されている。

連結決算関係…連結範囲(SPE等の取扱)については、適用指針第15号で開示の対応が図られているが、範囲自体を見直すかどうかは検討中である。在外子会社の会計方針の統一については実務対応報告第18号が2008年4月1日以降適用となる。また、関連会社の会計方針の統一については、2008年中に最終基準の公表を予定。

ストック・オプション…既に会計基準第8号が公表されており、会社法施行日以後に付与されたストック・オプションは費用化が求められている。また、注記事項の整備も行われている。

棚卸資産…低価法の強制については、会計基準第9号が2008年4月1日以降適用となる。後入先出法の廃止については2008年中に最終基準の公表を予定。

開発費の資産計上…2007年12月に研究開発費に関する論点整理が公表されている。

工事契約…2007年12月に会計基準第15号が公表され、2009年4月1日以降は工事進行基準が原則となる。

資産除去債務…2007年12月に公開草案を公表。2008年中には最終基準を公表予定。

退職給付会計…2008年中に最終基準を公表予定。割引率の決定方法等が論点となっている。

金融商品の公正価値開示…2007年8月に公開草案を公表。2008年中には最終基準を公表予定。これにより、より広い範囲の開示が要求されることとなる。

投資不動産…IASBとFASBの議論を踏まえて検討する。2008年中には最終基準を公表予定。

減損会計…IASBとFASBのコンバージェンスプロジェクトの議論を踏まえて検討する予定。

金融商品会計…日本の会計基準が複雑なため、技術的評価を継続するとしている。(金融商品会計基準がどのような方向性になるのかは、大きなポイントとのこと)

と、非常に多くの項目で、今後会計基準の改正が予定されていることには注意が必要かと思います。このブログでも1つでも多くの改正に関する情報を取り上げていきたいと思っています。

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実務対応報告第18号

皆さんは、企業会計基準委員会 実務対応報告第18号 「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」というものがあるのをご存知でしょうか。

もう、公表されてから、1年半が経過しているので、ご存知の方も多いと思います。私がIFRSに関心を持つようになったきっかけは、この実務対応報告第18号が公表されたことなのです。

これまでは在外子会社が個別決算を行うのに適用する基準は原則として日本基準としながらも、例外的に所在地国の会計基準も認められていました。このため、大半の企業は、在外連結子会社が採用する会計基準を所在地国の会計基準としていたのではないかと思われます。

実務対応報告が適用される2008年4月1日以降開始される事業年度からは、原則は日本基準としながらも、例外的に採用が認められるのは、米国会計基準と国際財務報告基準の2つのみとされています。(米国会計基準や国際財務報告基準を採用した場合でも、必ず日本基準への修正が求められる事項がありますので、ご注意ください。)

もともと、連結会計には関心のあった私ですが、この実務対応報告を読んだ時に、それまで国際会計として縁遠いものと思っていた米国会計基準や国際財務報告基準を日本の会計士もきちんと理解しておかなければならなくなったと衝撃を受けたのを覚えています。

私は、この実務対応報告第18号が日本企業に与える影響は非常に大きいものと考えています。少なくとも、所在地国の会計基準と国際財務報告基準との差異をきちんと分析し、在外子会社がこの差異の影響を受けるのかどうかをきちんと評価しておく必要があるのではないかと考えています。J-SOXの導入が急がれていますが、子会社が採用する会計基準が適切なものかどうかを評価することは、全社的統制や決算・財務報告プロセスの非常に基本的な部分に該当するのではないでしょうか?

実は、この件で、私もいくつかの国に出張し、BIG4の日本人駐在員の方とお話する機会がありましたが、非常に動きが遅いことを気にかけていらっしゃいました。監査法人から指摘がないからといって、安心するのは少々危険な気がする今日この頃です。

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