日本の会計基準(J-GAAP)

2018年2月19日 (月)

ASBJ 「税効果会計に係る会計基準」の一部改正等を公表

2月16日、企業会計基準委員会(ASBJ)は、「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(企業会計基準第28号)とそれに関連する以下の適用指針の改正を公表しました。

・税効果会計に係る会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第28号)

・繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(企業会計基準適用指針第26号)

・中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針(企業会計基準適用指針第29号)

1.主な改正の内容

(1) 個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い

 現行の取扱いでは、個別財務諸表における子会社株式及び関連会社株式に係る一時差異について、一律に繰延税金負債を計上することとされています。
 今回の改正では、連結財務諸表における子会社及び関連会社に係る将来加算一時差異の取扱いに合わせ、以下の2つの要件を満たした場合を除いて、繰延税金負債を計上することとされました。

① 親会社(投資会社)がその投資の売却等を会社自身で決めることができる。
② 予測可能な将来の期間に、その売却を行う意思がない。

(2) 分類1に該当する企業における子会社株式評価損に係る繰延税金資産の回収可能性の取扱い

 現行の取扱いでは、分類1に該当する企業においては、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとされています。
 しかし、完全支配関係がある国内子会社の株式評価損について、当該子会社を清算した場合には法人税法上損金算入が認められない(すなわち永久差異となる)ため、将来において税務上の損金に算入される蓋然性が低いときには、繰延税金資産の回収可能性はないと判断することも考えられることが明確にされました。

(3) 繰延税金資産・負債の表示

 現行の取扱いでは、繰延税金資産・負債は、これらに関連した資産・負債の分類に基づいて流動または固定区分に表示しなければならないとされています。
 今回の改正では、国際会計基準と同様にすべて固定区分に表示することとされています。

(4) 注記事項の追加

 財務諸表の利用者が税効果会計に関連する注記事項を利用する目的、その利用内容、実際に利用している情報を検討した上で、現状において不足していると識別された以下の情報について注記事項を追加することとされました。

① 評価性引当額の内訳に関する情報
・数値情報…発生原因別の注記に税務上の繰越欠損金が記載されており、その金額が重要な場合、発生原因別の注記に記載されている評価性引当額を税務上の繰延欠損金に係る金額と将来減算一時差異等の合計に係る金額とに区分して記載する。
・定性的な情報…評価性引当額(評価額)に重要な変動が生じている場合、当該変動の主な内容を記載する。

② 税務上の繰越欠損金に関する情報
・繰越期限別の数値情報…発生原因別の注記に税務上の繰越欠損金が記載されており、その金額が重要な場合、繰越期限別に以下の金額を記載する。
  税務上の繰越欠損金×税率(発生原因別の注記に記載される額)
  評価性引当額
  繰延税金資産
・定性的な情報…税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由を記載する。

 なお、連結財務諸表を作成している場合には、上記の追加された注記事項のうち、評価性引当額の内訳に関する数値情報のみ個別財務諸表においても記載が求められます。

2.適用時期及び適用初年度に関する取扱い

(1) 適用時期

 すべての取扱いは、平成30年4月1日以後開始する事業年度(連結会計年度)の期首から適用することとされています。
 ただし、「繰延税金資産・負債の表示」及び「注記事項の追加」については、平成30年3月31日以後最初に終了する事業年度(連結会計年度)の期末から適用することが可能です。

(2) 適用初年度に関する取扱い

 「個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い」及び「分類1に該当する企業における子会社株式評価損に係る繰延税金資産の回収可能性の取扱い」の適用があった場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う必要があり、新たな会計方針を過去のすべての期間に遡及適用することとされています。

 一方、「繰延税金資産・負債の表示」及び「注記事項の追加」については、表示方法の変更として取り扱い、比較情報となる過去の財務諸表については新たな表示方法に組み替える必要があります。ただし、「注記事項の追加」については、実務上の負担に配慮し、適用初年度の比較情報には記載しないことも認められています。

 この改正によって、従前、日本会計士協会から公表されていた税効果会計に関する実務指針及びQ&Aは改廃の検討がなされる予定となっています。

2018年1月19日 (金)

ASBJ 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱いを公表

企業会計基準委員会(ASBJ)は、1月12日、実務対応報告第36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」を公表しました。

1.公表の背景

最近、企業がその従業員等に対して新株予約権を付与する際に、一定の額の金銭を企業に払い込むタイプのものが見受けられるようになりました。
このようなケースは、ストック・オプション会計基準(企業会計基準第8号)の公表時には想定されておらず、ストック・オプションに該当するのか、複合金融商品に該当するのかが明確でなかったため、今回実務対応報告が公表されることとなりました。

2.対象となる範囲

この実務対応報告の対象となる取引は、以下のような新株予約権が想定されています。

a.企業が従業員等を引受先として新株予約権の募集要項を決議し、新株予約権には市場価格がない。

b.権利確定条件として、勤務条件及び業績条件が付されているか、勤務条件は付されていないが業績条件が付されている。

c.引き受ける従業員等は、申込期日までに申し込む。

d.企業は、申込者の中から新株予約権を割り当てる者及び数を決定し、割当を受けた従業員等は、割当日に新株予約権者となる。

e.新株予約権者となった従業員等は、払込期日までに一定の額の金銭を企業に払い込む。

f.権利確定条件が満たされた場合は権利行使可能となり、満たされなかった場合は失効する。

g.新株予約権者となった従業員等は、権利が確定した新株予約権を行使する場合、行使価格に基づく金額を企業に払い込む。

h.企業は、新株予約権が行使された場合、行使した従業員等に対して新株を発行するか自己株式を処分する。

i.新株予約権が行使されずに権利行使期間が満了した場合、新株予約権は失効する。

3.会計処理

権利確定条件付き有償新株予約権は、従業員等が金銭を企業に払い込むことから、資金調達や投資の機会の提供という性格を有すると考えられる一方で、その他の点については、ストック・オプション会計基準が想定する報酬としての性格を併せ持つものと考えられます。
そこで、前述のような権利確定条件付き有償新株予約権は基本的にストック・オプションに該当するとした一方で、従業員等から受けた労働や業務執行等のサービスの対価として用いられていないことを立証できる場合には、ストック・オプションに該当しないものとし、この場合には、複合金融商品適用指針(企業会計基準適用指針第17号)に従うこととされています。
ストック・オプションに該当する権利確定条件付き有償新株予約権の会計処理は以下の通りとなります。

(1)権利確定日以前の会計処理

①当該新株予約権の付与に伴う従業員等からの払込金額(対象となる範囲のe参照)を、純資産の部に新株予約権として計上する。

②当該新株予約権の付与に伴い企業が従業員等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上し、対応する金額を、純資産の部に新株予約権として計上する。

※各会計期間に費用として計上する額は、当該新株予約権の公正な評価額-払込金額(①参照)を、対象勤務期間を基礎とする方法等の合理的な方法に基づき計算する。

※当該新株予約権の公正な評価額=新株予約権の公正な評価単価×新株予約権の数

③新株予約権の公正な評価単価は、付与日において算定することとし、条件変更の場合を除いて見直しは行わない。また、算定技法については、ストック・オプション会計基準に従うが、失効の見込みについては当該新株予約権数に反映させる(④参照)ため、評価額の算定上は考慮しない。

④新株予約権の数=付与された新株予約権の数-権利不確定による失効の見積数 によって算出する。

※権利不確定による失効の見積数に重要な変動が生じた場合は、新株予約権の数を見直すこととなり、見直しを行った結果、企業が従業員等から取得するサービスに対する費用の計上額が(過年度分も含めて)変動するが、この変動額は見直しを行った期の損益として計上する。

※権利確定日には、権利の確定した新株予約権数に修正し、企業が従業員等から取得するサービスに対する費用の計上額が(過年度分も含めて)変動するが、この変動額は権利確定日の属する期の損益とする。

⑤新株予約権として計上した払込金額(①参照)のうち、権利不確定により失効(対象となる範囲のb及びf参照)した部分に対応する金額は利益として計上する。

(2)権利確定日以後の会計処理

①新株予約権として計上した額のうち、権利行使に対応する部分は資本に振り替える。

②権利不行使による失効(対象となる範囲のi参照)した部分に対応する部分は、失効が確定した期に利益として計上する。

(3)権利確定日の決定方法

①権利確定条件として勤務条件及び業績条件が付されている場合

 いずれかの条件を満たした時に権利確定する場合は、その条件を満たした日を権利確定日とする。

 両方の条件を満たした時に権利確定する場合は、両方の条件を満たした日を権利確定日とする。

②権利確定条件として勤務条件は付されていないが、業績条件のみが付されている場合

 業績が達成する(または達成しない)ことが確定する日を権利確定日とする。

4.開示

注記については、ストック・オプション会計基準第16項及び第24項から第35項に従って行うこととされています。

5.適用時期

①平成30年4月1日以後適用となりますが、実務対応報告公表日以後は適用することも認められています。また、実務対応報告公表日以前に発行された権利確定条件付き新株予約権についても遡及適用することを原則としています。

②なお、遡及適用を行うにあたって、実務対応報告公表日より前に新株予約権が権利行使され新株発行されている場合は、この実務対応報告の適用により新株予約権として計上される額のうち、権利行使に対応する部分を払込資本として計上することになります。

この点、本来は会社法の規定に従って科目(資本金、資本準備金、その他の資本剰余金)を決定することになりますが、この実務対応報告を適用しても新株予約権の行使があった場合の「資本金等増加限度額」(会社計算規則第13条①)を修正するものではないことから、その他資本剰余金として計上することとされています。

③さらに、実務対応報告公表日より前に新株予約権を付与している場合でも、実務上の困難さを考慮して、一定の注記を行うことを条件に従来採用していた会計処理を継続することも認められています。

④この実務対応報告の適用初年度において、従来の会計処理と異なることなる場合や、③を適用して従来適用していた会計処理を継続する場合は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われます。

2017年4月11日 (火)

ASBJ 連結財務諸表における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱いを改正

企業会計基準委員会(ASBJ)は、3月29日、「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第18号)及び「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第24号)の改正版を公表しました。

従前、在外子会社または在外関連会社に限定して、これらの会社が国際会計基準(IFRS)または米国会計基準(US-GAAP)を適用している場合は、連結決算において、当面の間それらを利用することが認められていました。

今回の改正では、これまでのケースに加えて、国内子会社が指定国際会計基準または修正国際基準(JMIS)に準拠した連結財務諸表を作成して有価証券報告書により開示している場合(開示予定の場合も含む)にも、当面の間それらを利用することが認められました。

ただし、いずれのケースにおいても

①のれんの償却
②退職給付会計における数理計算上の差異のリサイクリング処理
③研究開発費の支出時費用処理
④投資不動産の取得原価評価及び減価償却費の計上

の4点については、所定の修正が必要とされています。(この点は変更なし。)

改正後の実務対応報告は、平成29年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用されますが、公表日(3月29日)以後、適用することも認められています。

また、今回の改正により、指定国際会計基準または修正国際基準に準拠した連結財務諸表を利用して連結決算を行う場合は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われます。

2017年4月10日 (月)

ASBJ マイナス金利の取扱いに関する実務対応報告を公表

企業会計基準委員会(ASBJ)は、3月29日、「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い」(実務対応報告第34号)を公表しました。

退職給付債務等の計算において、割引率の基礎となる安全性の高い債券の支払見込期間における利回りがマイナスとなる場合、以下のいずれかの方法によることとされています。

 ① 利回りの下限としてゼロを利用する方法

 ② マイナスの利回りをそのまま利用する方法

実務指針第11項によれば、退職給付会計基準において、割引率は金銭的時間価値のみを反映させるべきであり、すなわち信用リスクフリーレートに近い期末における安全性の高い債券の利回りを用いるとされています。

金銭的時間価値のみが反映された信用リスクフリーレートとは、一般的に、信用リスクが存在しない状態で時の経過に応じて価値が増えるレートを反映するものであると考えられるため、この信用リスクフリーレートについて、マイナス金利の状況下においてどのように考えるべきか整理が必要とされています。

この点については、以下の2つの意見があるようです。

・信用リスクが存在しない状態においても、将来の価値が現在の価値よりも低くなると市場が評価しており、金銭的時価価値は時の経過に応じて減少する、すなわち信用リスクフリーレートはマイナスになり得る。

・現金を保有することによって現在の価値を維持することができるため、金銭的時間価値は時の経過に応じて減少することはない、すなわち信用リスクフリーレートの下限はゼロになる。

また、実務指針第12項及び第13項では、

・年金資産は時価評価が求められており、この時価もマイナス金利の影響を受けている中で、退職給付債務(割引率)にもマイナス金利の影響を反映させるべきかどうか。

・マイナス金利の影響を退職給付債務の算定に織り込んだ場合、現時点における負債(債務)の金額が将来の見積支払総額を超える場合の取扱いはどうなるのか。(そうなるのは、論理矛盾のような気もしますね。)

というような論点も指摘されています。

退職給付債務等の計算は、財務諸表に与える影響が大きく、この論点について早急に取扱いを示すべきという実務上の要請がある一方で、国際的にもマイナス金利の取扱いについての統一的な見解が定まっておらず、また、現時点におけるマイナスの利回りの幅が大きくないことを踏まえ、冒頭に示したいずれの方法も認めるという取扱いとなったようです。

なお、適用時期は、平成29年3月31日に終了する事業年度から平成30年3月31日に終了する事業年度とされており、その後の取扱いについては、引き続き検討が行われることとされています。

2017年3月17日 (金)

ASBJ 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準を公表

企業会計基準審議会(ASBJ)は、3月16日、企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」を公表しました。

この会計基準は、法人税等に関する会計上の取扱いを定めた以下の会計基準等の内容を整理したものであり、基本的にその内容が踏襲されているとされています。

日本公認会計士協会から公表
「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」(監査保証実務指針第63号)
「税効果会計に関するQ&A」(会計制度委員会)

ASBJから公表
「法人事業税における外形標準課税部分の損益計算書上の表示についての実務上の取扱い」(実務対応報告第12号)  

1.更正等による追徴及び還付があった場合(第5項~第7項、第14項~第15項)

過年度の法人税等(外形標準課税に係る事業税は除く)について、更正等により追徴される可能性が高く、その金額を合理的に見積もることができる場合は、その期の損益として計上することとされています。一方、還付の場合は、還付されることが確実に見込まれ、その金額を合理的に見積もることができる場合に、その期の損益として計上することとされています。ただし、いずれのケースも、誤謬により遡及修正が必要な場合は除きます。(遡及修正に関する会計基準の解説はこちら

なお、追徴(還付)税額を損益処理した場合は、原則として当期の税金とは別の科目で表示をすることが求められていますが、重要性がなければ、当期の税金に含めてもよいとされています。(実務上は例外処理のケースがほとんどだと思いますが。)

また、外形標準課税に係る事業税について、更正等により追徴(還付)があった場合は、原則として販管費で計上することとされていますが、合理的な配分方法によってその一部を売上原価として計上することも認められています。


2.受取利息及び受取配当金等に課される源泉所得税

受取利息や受取配当金等に源泉所得税のうち、税額控除の適用を受けない税額は原則として営業外費用で計上することとされています。ただし、重要性がなければ、法人税等に含めて計上することができるとされています。

お恥ずかしい話ですが、私は原則的な取扱いと例外的な取扱いを反対に覚えていました。きちんと確認しておかないといけませんね。。。


3.外国法人税

外国法人税(外国の法令により課される法人税等に相当する税金)のうち、税額控除の適用を受けない税額は、以下のように処理するものとされています。

・利益に関する金額を課税標準とする場合
 → 法人税等に含めて計上する。

・それ以外の場合
 → その内容に応じて、売上原価、販管費、営業外費用で計上する。

適用は、この会計基準が公表された日からとなっていますので留意が必要です。また、この会計基準の適用は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更には該当しない(内容的な変更を伴わないためと考えられます。)こととされていますので、その点もご留意ください。

2017年2月 3日 (金)

ASBJ リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱を公表

企業会計基準委員会(ASBJ)は、2016年12月16日、実務対応報告第33号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」(以下、実務対応報告)を公表しました。

1.リスク分担型企業年金とは?

リスク分担型企業年金は、実務対応報告第2項において、以下のように説明されています。

確定給付企業年金法(平成13年法律第50号)に基づいて実施される企業年金のうち、給付の額の算定に関して、確定給付企業年金法施行規則(平成14年厚生労働省令第22号)第25条の2に定める調整率が規約に定められる企業年金制度

では、「給付の額の算定に関して規約で定められる調整率」とは何なのか?ということですが、これも同じく第2項において、

積立金の額、掛金額の予想額の現価、通常予測給付額の現価、財政悪化リスク相当額(通常の予測を超えて財政の安定が損なわれる危険に対応する額)に応じて定まる数値

とされています。

2.今までの企業年金とはどこが異なるのか?

定義を読むと「?」がたくさん出てきそうですが、要するに、どういう年金制度なのかというと、「運用リスクを事業主と加入者で柔軟に分け合うことができるようなハイブリッド型の企業年金制度」(日本再興戦略改訂2015)ということになろうかと思います。

すなわち、年金制度に積立不足が生じる場合に備えて、事業主はリスク対応掛金を追加拠出することとしておき、リスク対応掛金では対応しきれない部分を加入者のリスクとして年金制度からの給付額を増減させて解消するというものです。

これによって、これまでの確定給付制度では年金資産の運用リスクはすべて事業主が負担する(年金制度の積立不足は事業主の責任で解消しなければならない)ことになっていましたが、加入者(従業員)にも一部負担をお願いできることとなります。

よって、リスク分担型企業年金では、以下の3つの掛金が予め設定され、財政再計算を行っても原則として変更は生じないとされています。

・標準掛金…給付に要する費用に充てるため、事業主が将来にわたって平準的に拠出する掛金
・特別掛金…年金財政計算における過去勤務債務の額に基づき計算される掛金
・リスク対応掛金…財政悪化リスク相当額に対応するために拠出する掛金

3.リスク分担型企業年金の会計処理

リスク分担型企業年金の会計処理を考える時、それが退職給付会計基準における「確定給付制度」なのか「確定拠出制度」なのかがポイントとなります。

退職給付会計基準において、ある退職給付制度を確定拠出制度と確定給付制度のいずれに分類するかは、

①事業主である企業が一定の掛金以外に退職給付に係る追加的な拠出義務を負うか否か
②一定の掛金を外部に積み立てているか否か

が判断基準になるとされています。(実務対応報告第17項)

①に関しては、前述の通り、毎事業年度における財政状況に応じて自動的に給付額が増減して財政の均衡が図られるため、基本的には企業に追加の掛金拠出が要求されないことが想定されていると考えられます。また、②に関しても、一定の拠出方法に基づく各期のリスク対応掛金相当額等が当該制度の導入時にあらかじめ規約に定められるため、基本的には一定の掛金を外部に積み立てているものと考えられています。(実務対応報告第18項及び第19項)

そこで、企業の拠出義務が前述の3つの掛金に相当する額に限定されこれらの掛金以外の拠出義務を実質的に負っていないと判断されるリスク分担型企業年金は確定拠出制度に分類され、規約に基づき予め定められた掛金の金額を各期において費用として処理することとされています。(実務対応報告第3項及び第7項) それ以外のリスク分担型企業年金は確定給付制度に分類されることになります。(実務対応報告第4項)

なお、企業が当該掛金相当額の他に拠出義務を実質的に負っているか否かの判断にあたって、リスク分担型企業年金における給付額の減額調整に対応して、当該リスク分担型企業年金以外の退職給付制度における給付額を増額する義務を負う場合、企業に追加的な負担が求められるため、当該給付額を増額する義務を考慮する必要がある点には留意が必要です。(実務対応報告第20項)

4.既存の確定給付制度を確定拠出制度に該当するリスク分担型企業年金に移行した場合の会計処理

今後、既存の確定給付制度から確定拠出制度に該当するリスク分担型企業年金に移行することが想定されますが、この場合は退職給付制度の終了に該当することとなります。(実務対応報告第9項)

すなわち、

・移行の時点で、移行した部分に係る退職給付債務とリスク分担型企業年金に移行した資産の額との差額を損益として認識する。
・移行した部分に係る未認識過去勤務費用及び未認識数理計算上の差異は損益として認識する。
・リスク分担型企業年金への移行の時点で規約に定める各期の掛金に特別掛金相当額が含まれる場合、当該特別掛金相当額の総額を未払金等として計上する。

こととなり、その結果認識される損益は、原則として特別損益に純額で表示することになります。(実務対応報告第10項)

5.リスク分担型企業年金に関する開示

確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金は、確定拠出制度に準ずる形で、いくつかの注記事項が定められています。(実務対応報告第11項及び第12項)

・企業の採用するリスク分担型企業年金の概要
 (例)標準掛金相当額以外に、リスク対応掛金相当額が予め規約に定められていること
    毎事業年度における財政状況に応じて給付額が増減し、年金に関する財政の均衡が図られること
・リスク分担型企業年金に係る退職給付費用の額
・翌期以降に拠出することが要求されるリスク対応掛金相当額及び当該リスク対応掛金相当額の拠出に関する残存年数

実務対応報告は平成29年1月1日以後適用されることとなっていますので、今後リスク分担型企業年金の導入を検討されている企業の皆様はご留意ください。

(参考文献)
「リスク分担型企業年金制度について」(谷内陽一 経営財務第3278号)

2016年6月21日 (火)

ASBJ 平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱いを公表

企業会計基準委員会(ASBJ)は、6月17日、実務対応報告第32号「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」を公表しました。

これは、平成28年度税制改正において建物附属設備及び構築物の法人税法上の減価償却方法について定率法が廃止され定額法のみとなったことに対応して、会計上の取扱いを示したものとなっています。

以下の要件を満たす会計方針の変更については、法令等の改正に準じたものとし、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととされています。(第2項)

①従来、法人税法に規定する普通償却限度相当額を減価償却費として処理しており、建物附属設備・構築物(またはその両方)に係る減価償却方法として定率法を採用していること

平成28年4月1日以後に取得する当該すべての資産に係る減価償却方法として定額法に変更すること

この場合には、法人税法の改正に伴い実務対応報告第32号を適用し、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備及び構築物について減価償却方法を定率法から定額法に変更している旨と会計方針の変更による当期への影響額を記載することとされています。(第4項)

上記以外の減価償却方法の変更については、正当な理由に基づき自発的に行う会計方針の変更として取り扱うこととされています。(第3項)

本来、法令等の改正が会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当するのは、法令等によって会計処理の原則及び手続が定められている場合であり、原則的には、税法の改正によって償却限度額の算定方法が変更されたことだけでは、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更には該当しないと考えられます。(第14項)

しかし、いわゆる税法基準がこれまでも会計上広く容認されてきた経緯等を踏まえ、一定の条件を満たす減価償却方法の変更については、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うことを妨げないこととされています。

なお、平成28年4月1日以後に建物附属設備または構築物を取得したかどうかにかかわらず、平成28年度税制改正に合わせて、これらの減価償却方法を定額法に変更する場合に、法令等の改正に準じたものとして会計基準等の改正に伴う会計方針として取り扱うことが意図されていることに留意が必要です。(第17項)

過年度遡及基準において、減価償却方法の変更の場合には、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合に該当するため、一定の事項を注記することが求められていますが、この実務対応報告によって、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う場合には、前提が異なっているため、注記事項が別途定められることとなりました。また、建物附属設備または構築物を取得していない場合にも所定の注記事項が必要となることに留意が必要です。(第18項)

この実務対応報告は、公表日後最初に終了する事業年度のみに適用することとされています。ただし、4月決算及び5月決算会社のように、公表日前に事業年度が終了している場合には、当該事業年度にこの実務対応報告を適用することができるとされています。(第5項)

今後も税制改正によって会計上の減価償却方法の取扱いが影響を受ける可能性があるため、減価償却に関する会計基準の開発を行い、いわゆる税法基準を利用することも含め、あるべき会計処理を検討する必要があると考えられますが、法人税法における損金経理要件の問題や減価償却方法が業績に与える影響の重要性を鑑みると、会計基準の開発に着手することの合意形成を図るには、まだ時間が必要とのことです。(第13項及び第14項)

2016年5月30日 (月)

ASBJ 収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集⑨

ようやくこのテーマの最終回を迎えました(汗)が、今回はその他の論点として取り上げられている内容と開示(注記事項)について触れたいと思います。

【論点16】契約コスト

IFRS第15号では、顧客との契約を獲得するために発生したコストで当該契約を獲得しなければ発生しなかったコスト(契約獲得のための増分コスト)のうち、回収可能と予想されるものは資産として認識した上で、関連する財・サービスの移転と整合する方法で償却することが求められています。

<検討された事例>
①コンサルティング・サービス契約を獲得するためのコスト
コンサルティング会社が1年超の新規の契約を獲得した際に、販売担当従業員に対する成功報奨金を支払ったとします。このコストは、契約が獲得されたことによって初めて発生するものであり(逆に言えば、契約が獲得できない場合は発生しない)、契約獲得のための増分コストであると考えられ、当該費用が回収可能であるならば、資産計上した上で契約期間にわたって償却する処理が必要になると考えられます。

②データ・センターの管理サービス提供前のセットアップコスト
サーバー管理業者が顧客のデータ・センターを管理する契約を締結したとします。サービス提供を開始する前に、自社のシステムと顧客のシステムを接続し、テストを行うための支出が発生するとします。この作業自体が顧客に対して財・サービスを提供するものでない場合は、契約増分のコストに該当する可能性があります。(他の会計基準で処理すべきものでないかどうかを検討する必要があります。)

【論点17】貸借対照表項目の表示科目

IFRS第15号では、企業の履行と顧客の支払との関係に応じて、貸借対照表の表示を以下の通り定めています。

 ・契約資産…顧客が対価を支払うか支払期限が到来する前に、企業が財・サービスを顧客に移転することに伴って生じる対価に対する権利

 ・債権…対価に対する権利のうち無条件(対価の支払期限までに考慮されるものが時間の経過のみである場合)のもの

 ・契約負債…企業が財・サービスを顧客に移転する前に、顧客から対価を前受するか前受の期限が到来している場合に、顧客に対して財・サービスを移転する義務

<認識された適用上の課題>
日本基準では、企業の有する権利が営業上のものである場合には「売掛金」として表示されますが、IFRS第15号に従った場合は、対価に対する権利が無条件か否かによって、「債権」と「契約資産」に表示を区分する必要があるため、その判断プロセスが必要となる可能性があります。

【開示(注記事項)について】

IFRS第15号においては、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質・金額・時期・不確実性を財務諸表の利用者がより理解できるようにするために、以下の定量的・定性的情報を開示することが求められています。

 ○顧客との契約から生じた収益に関する情報
  適切なカテゴリーに分解した収益の情報 など
 ○契約残高に関する情報
  債権、契約資産、契約負債の期首期末残高 など
 ○履行義務に関する情報
  履行義務に関する定性的情報、残存履行義務に配分された取引価格 など
 ○会計基準の要求事項を適用する際に行った重要な判断及びその変更
  履行義務の充足時期の決定、取引価格及び履行義務への配分額の算定 など
 ○顧客との契約を獲得または実行するためのコストから認識された資産に関する情報

<認識された適用上の課題>
当該要求事項に対応するための(追加的な情報を入手するための)体制整備の負担が顕著となる可能性があると考えられており、特に、以下の項目については負担が顕著になるる可能性があると考えられています。
 ①当報告期間に認識した収益のうち期首現在の契約負債残高に含まれていたもの
 ②報告期間末現在で未充足(部分的なものを含む)の履行義務に配分した取引価格の総額
 ③未充足の履行義務に配分した取引価格の総額について、企業がいつ収益として認識すると見込んでいるか

非常に長い間にわたって、IFRS第15号を仮に日本企業に適用した場合の影響を見てきました。あくまで、この分析はIFRS第15号をそのまま日本に導入するという「仮説」に基づくものですが、会計基準の国際的なコンバージェンスが進んでいる状況等を考えると、米国も同じ基準として採用しているIFRS第15号とかけ離れた会計基準が日本に導入される可能性は低いのではないかと思われます。そのような点を考えると、自社にIFRS第15号を導入した場合の影響度を調査しておくことも、非常に有用なものと考えられます。(おわり)

2016年4月 4日 (月)

ASBJ 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針を改正

企業会計基準委員会(ASBJ)は、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号)の改正を公表しました。

この改正は、適用指針の早期適用を行った場合に、早期適用を行った事業年度の翌年度の比較情報(=早期適用を行った事業年度の数値が記載対象となります)の取扱いについて明確化を図る観点から実施されたものです。

改正前の適用指針では、早期適用を行った事業年度の翌事業年度の比較情報を作成する場合は、この適用指針を期首に遡って適用する旨の記載がありました。この実務指針を適用する初年度において、期首に遡って適用されるのは、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う定めの部分に限定されているため、下線部分の解釈に関して疑問が寄せられていたようです。

今回の改正によって、早期適用を行った次の事業年度においても、期首に遡って適用するのは、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われる項目に限定されることが明確化されています。

なお、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う定めとは、以下の項目を指します。

①(分類2)に該当する企業が、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には回収可能性があるとする取扱い

②(分類3)に該当する企業が、概ね5年を明らかに超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には回収可能性があるとする取扱い

③(分類4)に該当する企業であっても、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には(分類2)に該当するものとする取扱い

2016年3月28日 (月)

ASBJ マイナス金利下における金融商品会計の取扱いを検討

企業会計基準委員会(ASBJ)は、マイナス金利下における金融商品会計(金利スワップの特例処理)の取扱いについての検討結果を公開しています。
詳細はこちら(第332回企業会計基準委員会議事)

【論点の所在】
適用金利が円LIBOR等に連動しているような借入金について、マイナス金利を想定した特段の定めがない場合の取扱いについて、2つの見解が存在するそうです。

①貸付側が借入側に利息を支払うのではなく、単に利息としての性格を有する金額が無くなったと解する。

②適用金利の下限をゼロとする条項がない限りは、マイナス金利に基づいて当事者間で金利のやり取りが行われる。(貸付側が借入側に利息を支払う)

ここで、①の見解を採用する場合で、金利スワップの特例処理を行われている場合(当該スワップ契約は金利スワップの特例処理の要件を満たすと判断されているものとします)、この特例処理を継続できるかという質問が寄せられているそうです。

【ASBJの見解】
金融商品会計基準及び同実務指針においては、マイナス金利の状況は想定されておらず、この論点について現時点でASBJの正式見解を出すことは困難である。

しかし、現時点では実際に借入金の変動金利がマイナスとなっている事例は少ないと考えられ、また、仮にマイナスとなっている場合でも、借入金の支払利息額(ゼロ)と金利スワップにおける変動金利相当額との差額は僅少であると考えられることから、①の見解を採用する場合でも、平成28年3月期決算において、金利スワップの特例処理を継続することは妨げられないものと考える。

要するに、現時点においては、金利スワップの特例処理を行っても、原則的な会計処理を行っても(ヘッジ会計が継続して適用できるのかどうかも論点になりそうですが)、重要な相違は発生しないというところを根拠にしているようです。

今後の事態の推移によっては、会計基準の見直しが起きるかもしれませんね。

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